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寂しいのは嫌い

「何の用だ」
創痍が予想をしていた通りだった。久秀の自室に入るなり、不機嫌な表情の久秀が待っていた。眉間に深い皺を刻み、鋭い目で創痍を射抜く。彼に謝罪をしに訪れた。しかし、その雰囲気に創痍はどうしても圧倒されてしまう。久秀と恋仲になって度々仲違いをすることもあったが、このような雰囲気になるのは久しぶりである。創痍は非常にまずい、と感じつつもここで引いてはいけないと自らを奮い立たせた。

「あの、久秀…その、」
「わざわざ何をしに来たのだと聞いているのだよ。数日間も任務を放棄して私の部屋に来る気配も無い…まあ全て風魔に任せたのだがね。彼は卿の何倍も優秀だよ。卿はとうの昔に出て行ったかと思っていたが…まだこの城にいたのかね」

創痍が口を開こうとした瞬間に、久秀はそのようにまくしたてた。何も反論出来るはずがなく、創痍は口をつぐむ。ああ、久秀は本気で怒っている。どうすればいいのだろうか。いつもの創痍ならば能天気な口調でさらりとそれをかわしたかもしれないが、今回は彼にそれほどの余裕がなかった。創痍は焦っていた。焦りは平常心を奪い、どんどん心を不安にさせていく。創痍はやがて暗い思考に支配され始めた。沈黙は鉛のように重たく創痍に圧し掛かってきた。久秀への言葉は考えていたはずだった。しかし、それも全て吹き飛んでしまった。

(どうすれば、久秀は許してくれるのだろう)

ふと創痍に考えがよぎった時、自分の懐に当たる冷たく、硬い感触のものの存在に気がついた。小刀だった。

「ごめんなさい、俺…」

今まで黙って創痍の様子を伺っていた久秀だったが、妙に震える創痍の体を見て眉をひそめた。次の瞬間、創痍は懐から小刀を取り出すと、それを鞘から素早く引き抜き、自身の忍装束を縦に裂いた。そして装束を力任せに横に開くと、上半身を晒した。

「これで許して、ね」
両手で小刀の柄を持ち、刃先を腹に向け、ふう、と深い息を吐いた創痍がそれを腹に勢いよく刺そうとした瞬間だった。

「この馬鹿犬がっ…!」

創痍がはっと気が付いたときには、彼の手には小刀は握られていなかった。それは自らの立つところから少し遠くへと転がっていた。創痍が切腹に及ぶ前に久秀がそれを取り上げて投げ捨てたからである。

「何を考えているのだ、卿は」
「だって、久秀怒って」
「ならば死ねばいいと卿は思ったのかね、どういう頭の造りをしているのだ!」

たまらず、久秀が強く創痍を抱きしめた。はあ、はあと荒い息を創痍が吐く。正気を失って悪い意味で興奮していた。久秀の言葉に動揺していた創痍だったが、彼の体温を感じ、少しずつ正気を取り戻してきた。

「ごめん、ごめん久秀…」
久秀は何も応えなかった。創痍の胸元に顔をうめていて、表情は見えない。ただ、彼の抱きしめる腕の力は強く、それを創痍は感じ取ることが出来た。

「卿は…」
「私のものだ、容易く死など、考えるな」

ぽたりと落ちたのは涙。

「久秀、」