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黒い心

顔面蒼白とはまさにこの事を言うのだろうか。創痍は大和への帰路を急いでいた。突如として現れた風魔小太郎らしき忍から、久秀から命を受けていた獲物を取り逃がし、更には奪われてしまったのである。このような失態は初めてだった。冷たい汗が背を零れ落ちていった。どうすれば、どうすれば。創痍の頭にはそればかりがぐるぐると回り続けていた。


「久秀!」

城へと帰るなり、創痍は久秀の自室へと飛び込んだ。しかし、その瞬間創痍の目に入ったのは、信じがたい光景であった。

「え…?」
「何だね」

そこに居たのは久秀と、先ほど創痍が連れて来ようとしていた、伊達軍の兵士達を横取りした風魔小太郎と思しき男だった。

「え、あの…え?」

一人、混乱する創痍をよそに、久秀はようやく気がついたというような顔をして、彼に向かってこう言う。

「卿が察しているのかは知らないが…彼は、『あの』風魔だよ。しばらく雇うことにしてね…」
「…」
「は…はああああっ?!」

普通の者ならば、ここで会釈の一つや二つをするところではあるが、風魔に至っては、腕を組んだまま、何も言葉を発さなかった。兜によって顔の上半分を隠している為、表情を読み取ることは出来なかった。読心術を持ってしても、彼の心は分からないだろう。
創痍としては、突然久秀が風魔を雇ったことが面白くなかった。自分という忍がいながら、わざわざ風魔を雇うことに何の意味があるのだろう。所謂嫉妬である。口にしてしまえば、久秀はくだらないと笑うだろうが。創痍は行き場の無いこの気持ちをどうにかしようと、ぐっと拳を握ったが、本音が口を衝いて出てしまう。
「ちょ、ちょっと待ってよ!俺に任務くれたじゃん!」
「卿を驚かそうと思ってね…いやはや愉快、愉快」

久秀は楽しそうに笑ったが、創痍には笑い飛ばせるほどの余裕が無かった。

「俺がいるのに…!なんで、なんで風魔なんか雇う必要があるの?!俺、今まで言われたことはちゃんとしたのに…」

続けようとしたが、思わず言葉に詰まる。創痍は悔しいのか、悲しいのか分からなくなってきた。創痍がじわじわと目に涙を溜める様子を見た久秀はぎょっとした。

「何だね、そう泣く必要は無いだろう…」
「でも、でも…!」

創痍は下を向く。これは、まるで自分が必要とされていないように思えたからだ。

「俺のこと嫌いになっちゃったの?」
「何を…」
「とにかく、絶対風魔のことなんて認めないから!」
「…待ちたまえ、そう、」

久秀は創痍を引き留めようとしたが、彼は部屋から出て行ってしまった。自室へと戻る長い、長い廊下を歩き、一歩一歩踏みしめる度にぐるぐると、創痍の腹の中でどす黒い感情が蠢いた。止まることなく沸き上がってくる黒い感情を抑える術を創痍は知らなかった。