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白昼堂々

ある日のこと。いつもは久秀から与えられた任務に明け暮れる創痍であったが、そのときは珍しく、休暇を与えられていた。創痍としては、休暇ならば、久秀といくらでも一緒にいられる!という夢のような話であった。しかし、久秀から彼に言われたのは、城下にでも出て外の空気にでも触れてきたまえ、という創痍にとってはなんとも残念な言葉であった。そういうわけで、創痍はなんとなく城下に向かい、なんとなく店を覗いてみた。いつもの忍装束ではなく、城下の人間に紛れるために着物を着て出向いた為、彼が松永の家臣であるということは誰も分からなかった。そうして、彼の整った顔立ちのために、よく城下の女たちから声を掛けられた。創痍はそれにも、なんとなく受け答えをしてみたり、彼女らから与えられる甘味などを有り難く受け取ったが、彼女らについていくような真似はしなかった。ある程度時間が経ったところで、創痍は飽きてきたのか、城へと戻ったのである。

「ただいまー」
「…何故帰ってきたのだね」
「えっ!」

創痍が城下から戻り、どこに寄り道をするわけでも無く、久秀の部屋へまっすぐと向かい、嬉しそうに彼の部屋の襖を開けると、久秀は眉間にひどく皺を寄せ、彼を睨みつけた。

「卿のせいで落ち着いて文を読むことも出来ないのだ。四六時中私に付き纏うからね、離れろという意味で暇をやったのだが…それも卿の頭では分からなかったのかな」
「え、ええ…」

そりゃないよ!酷い、俺泣いちゃうよ!と創痍が言うと、久秀は創痍のことを気にする素振りなど全く見せず、創痍が入ってきたせいで中断した、文の続きを読み始めた。

「離れたじゃん…!」
「四刻程度のことだろう…」
「十分離れてるもん!」
「…」

久秀の鬼!と子供のような雑言を並べ、寝転がって騒いでいる創痍に耐えかねた久秀は、五月蝿い、と自らの脇差を抜くと勢いよく創痍の頭のすぐ横の畳に刺した。創痍はその脇差を見ると、しばらく黙っておくことにした。黙った創痍を見て久秀は安心したのか再び文の続きを読み始めた。
城にいる昼間の久秀は、もちろん髷を結っていることが多いが、たまに寝る前のように髪を下していたり、一つにして横向きに結っていたりすることがある。今日は一つに結っているほうで、久秀の傍で黙って寝転がる創痍は、久秀のうなじに釘付けになっていた。甲冑を着ているときはほとんど肌を出さない為、久秀の首筋は白く、じっと眺めている創痍は妙に興奮していた。久秀が文を読んでいる最中、垂れかかった横髪を耳に掛ける姿は言いようもなく官能的だった。

「ひさ…」
「黙れ」

久秀の傍で寝転がっている創痍を見て久秀はぎろりと睨みつける。俺の頭の中とか全部久秀は見通しているんじゃないのかな、と創痍は思った。黙っているのが我慢出来なくなったのか、創痍は口を開いた。

「あのねー」

しかし、創痍が期待した返事は久秀から無かった。くそう、無視が一番辛いのに。創痍は、あからさまに落胆した表情を見せると、絶対こっちをむかせてやる、と妙なところで意気込んで、こう言った。

「今日城下の女の子たちが甘味とか御馳走してくれたんだ」

創痍は先ほど、城下で出会った女達の話をした。久秀は今まで眉一つ動かなさなかったが、創痍の話を聞くなりぴくりと体が動いた。

「お兄さん男前だからって!照れるよね〜」

しかし、創痍が期待したほど、久秀は反応を見せなかった。それに機嫌を損ねたのか、創痍はなんとなしに戯言を呟いた。

「…浮気しちゃおうかな」
「なっ!」

戯言と分かっていても、頓狂な言動に久秀は思わず創痍のほうを見る。眉間に深い皺を寄せた久秀の表情に、創痍は満足そうににんまりと笑った。

「あはは、やっとこっち向いてくれたー」

創痍はきゅっと久秀の手首を掴んで自分のほうへと引き寄せた。創痍の子供のような策略に嵌ってしまった自分を恥じて久秀は決まり悪そうに顔を逸らす。ああもう、どうしてこの人は。創痍は頬の筋肉が緩むのを隠すことが出来なかった。

「〜っ、久秀大好きっ」

創痍は久秀の膝の上に頭をのせて、久秀の腰に手を回してぎゅう、ときつく抱き着いた。そうすると、次の瞬間に、創痍の頭に拳骨が落とされた。

「いっ!」
「創痍」
「うー 」
「私のだよ。卿は」

殺し文句だ、それ。
創痍はたまらなく嬉しくなって、久秀の顔を見ようと上を向こうすれば、久秀から頭を押さえつけられた。きっと照れているんだろうなぁ、と創痍は頭に久秀の手の重みを感じながら、笑みをこぼした。

あまりの幸福に、創痍は頭がくらくらとした。このままいつまでも、久秀と共にいたい。彼がどこに行こうとも、何をしようとも。彼の望みを叶え、彼の一番近くで彼の瞳に映る景色を共に見たい。そして、彼を愛し続けたい。

それと同時に創痍は、自らが久秀を失ってしまったら、どうなってしまうのだろうか、と底知れぬ恐怖に襲われた。