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一目惚れ

古くて狭い家の中で世界を変えたのはあなた

「ぐっ… 」
「痛いか?」

ごほ、と咳き込む青年の腹を久秀は容赦無く踏みつけた。痛みに呻く声。ぼろぼろになった青年の衣服。その破れた衣服から覗く半身の、左肩から右脇腹にかけて、一本の赤い刀傷が走る。久秀の持つ刀からは、血が滴り落ちていた。その傷は他の誰でもない、久秀がつけたものである。傷口をわざと、力を込めて踏みつけると悲鳴にも似た声があがった。

「卿が攻撃さえしてこなければ…穏便に話は済んだのだがね…」
「ぐっ…!あ、あぁ…! 」

浅く、短い息遣い。おそらくこのままにしておけば、この青年は死んでしまうだろう。だが久秀は、それだけは避けたかった。どうしてもこの青年が欲しかったのだ。

「まさか宮野の生き残りが生きているなど…思いもしなかったよ」

久秀は青年の前髪を掴み、無理矢理立たせると、壁際に押し付けた。そうして、久秀の吐息がかかるくらい顔を近づけて、青年にこう言った。

「欲しいと決めたら必ず手に入れなければ気が済まない性分でね…手段など選んではいられないのだ」

青年の、反抗的で、鋭い瞳。その瞳を見て久秀はぞくりとした。恐怖ではなくて喜び。この者を自らに服従させる。きっと躾甲斐があるだろう。青年のかすれるような声が耳に届く。

「…くる って  る」
「心外だ。どんな手を使ってでも卿を手に入れたいのだ。光栄だとは思わないのかね?卿を殺したくは無いのだが…このままでは死んでしまうよ」

ひゅう、と青年の呼吸する音が聞こえた。青年の瞳は揺らいでいた。久秀への反抗心。そして…死への恐怖だった。

「私のものになりたまえ」

私に仕え、私の望みを叶えろ。報酬も欲しいだけやろう、そうだね、この傷の手当もしてやる。久秀は青年の顎を無理矢理掴んで自分のほうへ向かせた。

「…負けた よ 」

諦めたように青年は目を伏せた。俺はまだ死にたくない。あなたに仕える。そして望みも叶えよう。だから、早くこの傷の、手当をしてくれない、と言って。

「物分かりが良いのは嫌いではないよ」

久秀はそう言うと、青年に接吻をした。じんわりと、久秀の口内に広がっていく青年の血の味。突然のことに驚いて、青年は目を見開いた。

「くれぐれも舌を噛み切ったりはしないでくれたまえ」

唖然とする青年をよそに、久秀はこの青年の住んでいた家屋の外に待機させていた家臣を呼び出し、青年を城まで運ぶようにと言った。

「失われし一族の生き残りか…長かったな」