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暗闇の中でひとり

心臓が大きく鳴った。ふと見た自分が受け持つクラスの生徒の名簿には"宮野創痍"という名があったのだ。

「・・・何故」

どこまで運命は自分を苦しめるのか。久秀はひどい眩暈がした。

入学式から2日経ち、新入生は実力考査や学校案内やらを受けいよいよ明日から本格的な高校生活が始まろうとしている。久秀は一年生と三年生の一部クラスの数学を受け持っており、各々のクラスの名簿を確認しているところであった。

「創痍、」

久秀が出会ったのは、彼が知る創痍と全く同じ容姿をした、同じ名をした男だった。自身の作り出した幻想ではなく、創痍という人物は存在していた。当然のように彼も、自身と同じように記憶があると思っていた、しかし。


『 、初めて ・・会いましたよね、 ?』



創痍を見た時の愛しさ、は。抑えきれるようなものではなかった、ずっと、彼を探していた。
その手で触れて欲しい、その声で名前を呼んで欲しい。
(昔と同じように)

「何故卿は私を痛めつけるのだ、 」




夢を見るのだ。
ひどく哀しい最期を、ひどく愛しい最期を。
身体を焼き尽くしていく炎、最期まで自分の腕の中にある人の身体、一瞬の内だが自分とその人が死ぬまでの過程が酷くリアルに、酷く鮮明に。炎が二人の身体を包むようにして業火となった。

自分?



「 う、 わ ぁあっ」

飛び跳ねるような勢いでベッドから上半身だけを起き上がらせた。背にはびっしょりと汗をかいている。夢でこんなに汗をかくものなのか、と創痍は思った。ここ一週間程見る夢は同じようなものばかりだ。自分と、ある人が炎に巻き込まれて死ぬ。心臓は五月蝿く音をたてた。息はひどく荒かった。
悪夢、だが腕の中にいる人物のことを創痍は愛していて、死んでいく中で何も後悔を残さず、ただその人と最期まで一緒に居ることができたという満ち足りた感情だけが自身の中にあるだけであった。

「・・・なんなのかなぁ」

すぐ傍にある携帯を手に取り時刻を確認するとまだ朝方の4時を回ったとところだった。液晶画面の光が目を射し、創痍は目を瞑った。

「水のも、」

自分以外には誰も居ないアパートの一室がその時は広く見えてしまい、創痍はミネラルウォーターのボトルを持ったまま、しばらく冷蔵庫の前から動けなかった。