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混ざる

「おい創痍、お前どこ行ってたんだよ」
「あっ・・・チカ、・・うーん、迷ったっていうか・・・なんていうか」
「はあ?」

講堂に入ると式はすでに始まっていた。職員、保護者、生徒からじろじろ見られながら創痍は気まずそうに自分の席に誘導されて座る。遅刻していたはずの元親は創痍が道に迷っている間に学校に着いていたのか、創痍の一つ前の席から振り返ってこそこそと話しかけてきた。周りの生徒もちらちらと二人を見ている。元から派手な風貌をしている二人だから見られないはずがないのだが。曖昧な答えしか返さない創痍に元親は溜息をつくと再び前に向き直った。
一方創痍は式に集中することが出来なかった。遅刻した心配よりも、十数分前に出会った久秀のことが頭から離れなかった。
(一体あの人は誰なんだろう)伯父の知り合いだろうか、しかしどんなに記憶の中を辿っても創痍は彼が一体誰なのかがわからなかった。そして自分の涙の理由も。彼を見たときに感じたことも。分けの分からないことが多すぎる。頭がパンクしそうだ。
ちらりと職員席のほうを見る。しかしそこに久秀の姿は見当たらなかった。

*


誰もいない校舎の中で一人、廊下の壁にもたれかかり、久秀は自分の瞳から零れていく涙を止めることが出来なかった。入学式など参加出来るはずもなかった。息が詰まるように苦しく、心臓は五月蝿いほど音をたてて鳴っていた。
(創痍は自分のことを覚えていない)久秀が目にした男は紛れもなく久秀の前世の記憶の中に居る創痍であった。その顔を見間違うはずがない。(こんな再会など望んでいない)
しかし、どうして創痍は涙を流したのだろうか。演技?いや違うだろう、そんな器用なことが出来る男ではない。考えれば考える程分けがわからなくなっていった。頭を抱え込む。苦しくて押しつぶされてしまいそうだった。



久秀のことで創痍の頭の疑問が晴れることはなかったが、教室に着いて、クラスメイトの顔を見た瞬間にその疑問を一度、考えることをやめてしまった。
ぱっと見た所、整った顔立ちの生徒が多かった。教室に誰かが入るたびに皆ドアのほうを見る。創痍が来た時ももちろん同じような反応ではあったが、少しだけ違って、入学式に遅れてきたこともあってか女子がひそひそと小声で話すのを見て創痍はこの一年間が不安になってしまった。

「チカーどうしようー俺いじめられるかなぁ・・・」
「ばぁか、んなことねーよ。お前みたいなのがそんなのされるわけねぇって」
「でもひそひそ話されてるよぅ・・・」
「小学生か!」

元親は中学の頃から顔が広かったのもあってかクラスメイトにも知り合いがいたらしく、すぐに何人かの男子生徒から声をかけられていて創痍は一人になってしまった。席について溜息をつく。

「お前」
「えっ」
「真面目に行動できないのか?入学式だぞ」

突然隣に居た女子から話しかけられ思い切り肩を揺らした創痍。右側を見るとどこの国の人だろうかと思うほど美人な女子が居て、後ろは短く、横の髪だけは長く伸ばしてある金色の髪に豊満な胸。長い睫に白い肌。グロスを縫った桃色の唇は上品に光っていた。

「いや、えっと・・道に迷っちゃって・・・」

見知らぬ美人な女子からいきなり注意を受けて創痍はしどろもどろにそう答えた。返答を聞いて女子は溜息をついた。不愉快、というよりもとりあえず誰かと口がきけたことに創痍は一安心して、女子にこう言った。

「あの、俺N中の宮野創痍」

創痍の言葉に女子は目を真ん丸くすると、もう一度呆れたように溜息をついて笑った。

「お前変わってるな、その見た目で」
「うぇえっ・・?え、何?」
「S中のかすがだ、」

女子の名前を聞いて創痍は今までの表情とは打って変わって顔を明るくした。

「かすがちゃん!」
「なっ!いきなり大声を出すな宮野!、五月蝿い!」





* 混ざる



fin
高校生の思考なんてこんなものだと思う(←