×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -












零れ落ちたもの

「創痍、」

目の前に居たのは何十年も、否、何百年も前から想い続けた恋人だった。その声も、髪の色も、目の色も。何も変わらないまま、彼はそこにいた。見間違うはずもない、創痍だ。心臓が早くなる、目の奥からはこらえ切れない涙が溢れてきそうだった、

「 あの、」

沈黙を破ったのは創痍だった。


「どうして、 俺の名前、 知ってるんですか?」

目を見開く久秀をよそに創痍は不思議そうな、怪しむような、そんな目で久秀を見ていた。

「 、初めて ・・会いましたよね、 ?」

言葉を失った。分けがわからない、思考がかき乱されるように疑問と、失望、絶望が頭を巡る。何も言わない久秀に創痍も不安そうに久秀を見ていた。二人以外誰も居ない廊下は、物音一つしなかった。

久秀がやっと導き出した答えは、彼には記憶がないということだった。




 おかしい、あの人を見つけたときから頭が痛い。自分が目の前から歩いてきた教師の顔を見た途端に、心臓が大きく鳴った。全力で走った後のように、心臓は五月蝿い程音をたてて、脈は速くなる。
創痍は頭の中に浮かぶ疑問よりも何よりも、突然知らないはずの自分の名前を呼んだ男に驚いた。
初めて会ったはずの、知らない男。
講堂の場所を聞いたことも忘れて、頭に思い浮かんだままの疑問をぶつけた。それに対して男は創痍よりも驚いているようだった。どこかで会ったのだろうか、この人と。痛む頭を回転させて記憶の中からその人物を探した。しかしそんな人物はいなかった。

「 、初めて ・・会いましたよね、 ?」


長い沈黙。しかし、創痍はその男の顔を見た瞬間から感じた感情があった。
胸を焦がすような愛しさ、と切なさ。



「あれ?」
「 、! 」
「ごめんなさ、  ・・・ 涙、 が、」

突然創痍の瞳から涙がこぼれた。涙は頬を伝ってぽたりと地面に落ちていった。

「 とま んな・・い、」

驚き創痍を見つめる久秀。創痍は涙を止めようと制服の袖口で目元を拭った。しかし涙は止まることなくまた頬を伝っていく。

「・・、大丈夫かね 」
「 っ、 は」

差し出されたハンカチを創痍は受け取った。久秀の手は小刻みに震えていた。

「講堂は今来た廊下を引き返して突き当たりの階段を下りたまえ、外に出たらすぐ右手にある」
「まっ、 ・・・」

待って、と言おうとした創痍を置いて久秀はその場から去っていった。一人取り残された創痍はその場に座り込んでしまった。


「 どうして、」


こんなに苦しいんだ。問いかけに答えるものはあるはずもなく、一人だけの空間に消えていくその言葉。創痍はしばらくその場でぼんやりとしていた。


零れ落ちたもの

fin



まじ少女漫画^o^