「シフォンケーキつくったの」


頭がずきずきと痛い。喉がいがいがする。きもちがわるい。吐きそうだ。食欲もあるわけない。なのに目の前の彼女は今なんと言ったのだろう。


「シフォンケーキ食べて 元気になろう」


にこやかに、ただ純粋に笑っているのだと思う。頭の回路がどことなくちがうのだなあ、とはたらかない脳みそでそれだけ考えられた。阿呆の子というか、無知というか、天然というか。うらやましいところもあり、ねたましくもあり、いとしくもなる。


「残念ながら、それは食べられそうにないです」

「風邪だものね」

「…わかっててやってたんですか」

「アレンくんだったら甘いものでも元気になるかなって思っただけだよ」

「さすがにそこは、ほかの人と同じと考えてください」

「アレンくん ひとはみなちがうのだよ?」

「真面目に答えた僕が馬鹿でした」


話していても ちょっと残念そうな表情がぼやけた視界のなかでもわかった。


「一緒にいるとうつっちゃいますよ?」

「アレンくんのためにつくったシフォンケーキをどうしようか結論がでたら出て行くもん」


けっこう悲しかったんだなあ。僕がほんとにそれで元気になると思ってたんだろう。彼女のちいさな手には真っ白なお皿。そのの上に、やわらかくほのかに甘そうな抹茶のケーキがおしとやかにのっていた。ぶっちゃけ食欲もないし、おいしそうだとも思えなかった。


「…なんだか甘いもの食べたくなったなあ」

「え ほんと?」

「でも、指先動かすのも億劫なんです」

「食べさせたげる!」


彼女のまわりにきらきらとしたものがちりばめられている。よほどうれしいんだなあ。もしかしたら食べた瞬間に吐き出すかもしれないけど、そこは紳士たる僕のプライドが許さないからがんばらなければ。ちゃんと風邪が治ったら、一緒にカフェにでも行こうかな。
フォークを持ったうれしそうな顔が近づいてきて、唇にやわらかな感触がした。


「はい、アーン」






その頬に触れたいと思った





20130502
企画 食べて仕舞おう 様提出
ありがとうございました