「(…きれい)」
彼の泣き顔を捉えた瞬間に、胸の奥がきらきらとした感情に満たされた。きれいだなんて、男の子にはふさわしくないかもしれない。それでもやっぱり、彼にはそのことばがとても似合うと思った。銀灰色の瞳からはらはらとこぼれ落ちる透明なしずくが、真っ赤に染まった手のひらを滲ませる。 うつむいている彼の周りにはたくさんのAKUMAが転がっていた。ひとの形をしたまま、腕だけが機械になっているものも数体。まさに血の海だった。
「どうしたの」
ぽたりぽたりとしたたり落ちる赤いそれは、彼のブーツに跳ね返る。
どうしたのと聞いておきながら、本当はわかっているのだ。そのまま、返答がないこともかまわずに口を開く。私はひょっとしたら意地が悪いかもしれない。
「つらくないの?」
「つらいよ」
「やめないの?」
「やめる理由がないから歩くんだ」
彼の葛藤は、私なんかのちっぽけな頭じゃ理解はできないだろう。けど、それでもいい。 うつむいていた顔が私に向く。頬に伝う涙がにぶく光る。震える口元が、微かに弧を描いた。泣きたくなるほど、きれいな笑顔だった。
ああ きみは たたかってるんだね。恐怖や不安や、やるせなさ、むなしさ、それこそたくさんの感情を胸に抱きながら、ここに立ってるんだ。弱虫で、臆病者で、でもきっと誰より強くなれる男の子。
「歩き続けることを誓ったから」
揺らぐことのない信念。それが鎖になるか、希望であり続けるか。今はまだわからない。
ふるえる心臓
ねえきみがこれからどんどんたくましく強くなったとき、私はきみの側にいるのかな。
130124
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