ノボリ兄さんとクダリ兄さんは私のお隣さんで、ちいさい頃からよく遊んでもらっていた。親同士の仲も良かったから、なにをするにも一緒だった。兄さんたちは私を妹のように可愛がってくれて、私も彼らを兄のように慕っていた。大人になったらどちらかと結婚する、と宣言したら二人の喧嘩が始まったことはよく覚えている。今も昔も、私の素敵な兄さんたち。


「……」


駅へ行くと、ちいさな女の子に風船を渡してるノボリ兄さんを見かけた。片膝をついて子どもと視線を合わせている。ああいう優しいところは大人になっても変わってないな。にこりと微笑んでいる姿をぼんやりと見つめていた。いいなあ 風船。


「…やば 乗り遅れる」


発車二分前。遅れたら先生に怒られる。
兄さんに話しかける余裕もなく、急いでホームへ駆け込んだ。







「おはよー」


次の日。学校が休みだったから兄さんたちの家へお邪魔すると、優雅に珈琲を飲んでいるノボリ兄さんがいた。クダリ兄さんはまだ寝ているのだろうか。


「名前が早起きとは珍しい」

「うん 実はね」


気になってることがあった。


「昨日 女の子に風船渡してたじゃない?」

「見ていたのですか」

「うん。でね そのときの兄さんの表情が妙に色っぽい気がして」

「……」

「兄さんてロリコンなのかな?って思ったんだけど」

「ぶっ」


うわきたな。珈琲吹いた人初めてみたよ。ごほごほと咳き込む兄さんは涙目になっていた。


「ちがっなにを」

「あ 気にしなくていいんだよ」

「いやだから」

「人それぞれいろんな性癖があるから別に私はいいんだけど、補導だけはされないでね?」


慌てる兄さんの肩にぽん、と手を置くと「聞いてくださいまし」と上から掴まれた。珍しく必死な形相だからちょっとどきどきする。視線を合わせるために屈んでいた私と兄さんは数秒見つめ合うのだけど、んん なんだか気まずい。兄さんたちったら どんどんイケメンになっていくから私は気が気じゃない。や、まあそれが自慢なんだけど、つまりその、いい男に見られるっていうのは照れるわけで。


「あなたのちいさい頃に似ていたんですよ」


私より先に視線を外した兄さんがぽつりと呟いた。みるみる赤くなっていくノボリ兄さんの言葉が私の脳内をじわり じわり。やだなにこれ。顔が熱い。触れてる手の感覚がなんだか生々しい。どうしよう。兄さんのこと見れない。





子どもの時間はもう終わり



120206
アニメも見たことないのに友達の話や絵を見ていたら見事にハマった