休みの日に髪を切った。ポニーテールにできるくらいの長さだったのを肩までばっさり。なんだかさっぱりした。あいつは驚くだろうか。それともいつもみたいに無反応かな。どちらにせよまだなにかが足りない。

次の日に髪の毛を染めた。真っ黒だったのを明るい赤にしてみた。吃驚するくらい似合わなくて、鏡をみて思わず笑った。涙がぼろぼろ零れてきた。

次の日は学校だった。教室に着いてみんなが私を見たとたん何故かしんと静まりかえって、おかしくて笑いそうになった。リナリーが走り寄ってきて私の顔をわし掴む。視界の端にぽかんとしてるラビとアレンがいた。神田は、どこにいるんだろう。


「どうしたの、これ」

「切って染めてみた」

「見れば分かるわ」

「似合わない?」

「ええ 笑っちゃうくらい」


むしろ怒ってませんかお嬢さん。教室には少しずつざわめきが戻ってきていた。私はリナリーの一変して泣きそうな顔から視線を逸らす。その表情は反則だ。私まで泣きそうになる。


「好きだったのに」

「ありがと」

「名前の髪を結ぶのも、梳くのも、とても好きだったのよ」

「ん ごめんね」


チャイムが鳴った。リナリーが渋々席に向かっていくのを見て、私も自分の席につく。
そんなに艶のある髪の毛でもなかったから、染めたおかげで大分痛んだ毛先を指先で弄ぶ。教室のざわめきがフィルムをかけたように遠くに聞こえた。ちょっとだけ虚しさがする。






「おい」


腕に埋めていた顔をのそりとあげると、私を見下ろしていた神田がいた。ああなんだ。もう放課後か。寝起きの回らない頭で席を立つ。やけに教室が静かだった。


「アレンとかは?」

「先に下駄箱行った」

「起こしに来てくれたんだ」

「まあな」


珍しいこともあるものだ。神田の隣を歩きながら、そういえばなにも言って来なかったなと思う。私を見てちょっと動きを止めただけで、あとは普段通り。その方がありがたかったけれど。オレンジ色に染まる階段をゆっくり降りていく。


「…なんかあったのか」

「なにが」

「髪」

「ああ。似合う?」

「似合ってねえな」


鼻で笑われた。
なんだろう。聞いてくれてすこし安心してる。そうされなければありがたかったなんて、なんで思ったんだろう。半分ずつあったんだろうか。なんにせよ、私は変なところで意地を張る。

「イメチェンに気合いいれた」

「入れすぎだろ」

「黒の時のがかわいかった?」

「…」


気難しい顔をした神田はなにも言わないで階段を降りていく。
あとすこしで玄関だったのに。あとすこしで何かを捨てられたのに、ぼそりと、勿体ねえとは思うと聞こえて思わず足を止める。神田は気付かずに不思議といつもとは違ってゆっくりしたペースで、けれどどんどん遠くなって行った。


「そういうときに本音いうのって ずるい」


いつもはなにも言ってくれないくせに。私がいないのに気がついた彼はポニーテールを揺らして振り向いた。じっと、穏やかな真っ黒の瞳で見つめられる。
神田から遠ざかりたかったのかもしれない。なんとなく。色だけでも。長さだけでも。なのにそうなったらぼろぼろ泣いてた。我ながらどうしようもない馬鹿である。


「黒に戻そうかな」

「…いや」


しかめっ面になった神田がなにかいいたそうにする。首を傾げて私は待つ。はっきりとはしているものの、ちいさかったから辛うじてなにか言ってるのが聞こえた。


「それでいい」


神田は大股10歩程度で届く距離にいた。
赤にして良かった。髪を切って良かった。やっぱり、神田を好きでいて良かった。


「神田」

「なんだ」

「抱きついてちゅーしてもいい?」

「気持ち悪いから嫌だ」





あたしガール



120205