「うっわー」



ドアを開けた祐希の 私のスーツ姿に対する感想はそれだけだった。


「なにその反応」


「あ いや やっと年相応になったね、みたいな」


「他にもっと言葉あったろーが」



当たり前のように家に入って、ゆっくり歩く祐希の背中にパンチをいれるとわざとらしくよろけて痛いと言う。
リビングに着いたもののおばさんも悠太もいなかったから、どこに行ったのと聞くとふよふよした声で「買い物」それだけ。アニメージャが開かれたままだったから 優雅にお留守番でもしていたんだろう。


「なんでその格好で来たの」


「なんでって、見せびらかしだよ」


「なにそれ」


「一足先に社会人さ。どうだ格好いいだろう」


「…はあ」



祐希はやれやれと首を左右に振って、炬燵へ入る。なんなのこの子。つまらない反応ばかりしやがるな。俯いてる顔を不意にのぞき込むと、なんとも言えない表情をしていた。


「…祐希は進学だっけ」


「うん」


「私ね、就職先が遠いから引っ越すんだ」


「ふうん」


「なかなか会えなくなるね」


「うん」



なんとなく、黙り込む。祐希は途中から机におでこをくっつけたまま返事をし出して、どんな顔をしてるのか分からなくなった。テレビからたくさんの笑い声が聞こえる。
沈黙はすぐに終わった。祐希の声だけが耳に凛と響く。


「 たまに帰って来れば」


「そうだね」


「正月とか」


「うん。仕事が落ち着いたら遊びに来ようかな」


「悠太が待ってるよ」


「祐希は待っててくれないの?」


「…」


「さみしい?」



顔を傾けて私を見た祐希の表情はすこし照れくさそうで、口をむっと結んでた。ずっと一緒にいたもんね。六人でたくさん遊んだし、喧嘩だってして、それでも一緒にいるのが楽しくて。いつも笑ってたなあ。要にはしょっちゅう怒られてたけど。私だって、今まで育って来た場所から遠くへ行くのは寂しい。でも、悲しくはない。


「友達百人つくってくるから」


「小学生ですか」


「祐希も頑張ってね」


「なにを」


「いろんなこと」


「意味わかんない」


「ずっと応援してるから」



私がにやっとすると、祐希は気持ち悪いと言ってちょっと笑った。シャイなところはこれからも変わらなさそうだ。


「ただいまー」


「あ 悠太だ」


「おかえりー」


「なんだ名前来てたの、ってなにそのスーツ」


「格好いいだろ」


「似合うわよ」


「おばさん流石」


「ところで玄関外が騒がしいけど」


「ああうん」



がちゃっと開かれたドアの向こうに、お馴染みのメンバーが揃っていた。なにをしでかしたのか、千鶴のほっぺたが要にぎりぎりと伸ばされている。偶然が重なって、帰ってくる途中にそれぞれと出会したらしい。いつもの賑やかさが心地よかった。これからみんなで遊ぼうと、ほっぺたを真っ赤にした千鶴が高々と叫んで、私と祐希の腕をがしりと掴んだ。




センチメンタルジャーニーに花束を


ね、またみんなで遊ぼう。今度はお酒を飲みながら、いろんなこと話そう。辛くて悲しいことを面白おかしく語ろうよ。みんなが将来どんな大人になってるのか、会えるまで楽しみにしてるから。離れ離れになっても、どうか君たちとの縁が続きますように。


120204