大きな口にぱくりと含んだのはふわふわ生地のガトーフレーズ。真っ赤な苺は生クリームの上にちょこんと可愛く、お行儀よく座っている。だのにフォークを握る手はその可愛らしさと反してごつごつしてて、頑張ってる男の子の手なんだよなあ。そのギャップにやられてしまうのは、きっと私だけではないんだろう。骨ばった長い指に見惚れていると、私の視線に気付いたラビは下ろした髪を揺らしてどうした?と聞いて来た。翡翠の瞳がぱちぱち瞬く。絡まる視線。ああ 綺麗な色。


「…なんでもない」

「気になるんですけど」


暖炉の火はぱちぱち音を立てて、私たちを仄明るく照らす。ココアが体を暖める。談話室には、私とラビしか居なかった。ジェリーさんが作ってくれたケーキ、残ってて良かった。任務で疲れた体を癒すのは、甘いものだよね。うまいとほっぺたを弛ませるラビに、私も自然と微笑んでしまう。内側からじわじわと、もどかしい様なくすぐったい様な、幸せな気持ちに心が揺れる。


「ラビを見てると幸せになれるなあって思ってたの」

「え」


なんだいきなり、と言った目でラビは私をまじまじと見る。不思議だなあ。ただそこにいるだけで人を幸せにすることが出来るんだもの。笑顔にさせることだって、きみはいとも簡単にこなしてしまう。生まれ持ったものなんだろうなあ。すこしうらやましい。ごくん、ほんの少し冷めたココアの甘さが、口いっぱいに広がった。


「オレはお前といると幸せだけど」


真っ赤に熟れた苺を差し出すラビは、満面の笑みで首を傾げる。彼の言葉を借りるなら、その笑顔にストライク。やられた!悔しい気持ちと、きゅんとした心がまじりあう。不意打ちなんてずるい。
ああ ぱくんと口に含んだ苺の甘酸っぱさと言ったら!なんだか今、言い表せないくらい満たされてる。


「幸せです」

「そりゃよかった」

「ねえラビ、」

「ん?」


ああ 戦の中でも幸せはあるものね。どんなに些細な幸せでも、取りこぼさない様にしたいと思えるの。ラビのおかげ。ねえ、きみと一緒に歩いたなら、私はどこまでも強くなれるんだ。
優しく問い返してくれたラビのほっぺたに、キスをする。


「だいすき」




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