意地悪な臨也くん。しょうもない悪企みをしてはにやにやしたり、けらけら愉快に笑っては人を馬鹿にしたり。相手を不快にしているのに、自分は至極楽しそうに傍観してるのだという日常を、わたしはあまり見たことがなかった。滅多に触れない非日常。好奇心がかさばる。


「わたしも知りたい」


そう言っても、君は知らなくてもいいと瞼に被さる手のひらはわたしを眠りに誘ってはぐらかす。子供扱いされてるのが嫌で、臨也くんの細い手首を鷲掴んで一緒にベッドへダイブする。そうすると、彼はたまに綺麗に笑う。いつもが下品という訳じゃないけれど、ふとしたときに零すその笑い声に、わたしの心は満たされていた。彼がとても優しい表情をすることがあると、一体どれほどの人間が知ってるだろう。しかしこれで騙されているのだとすれば、仕方がない。さっくり諦めて次の恋を探すとしよう。かといって、ここまで大掛かりに騙すのは飽き性で面倒くさがりの臨也くんにとって、なにか理由があるに違いない。とわたしは思う。


「疑ってるのかい?」

「疑うのは大事なことだよ」

「拗ねてるの?」

「拗ねてなんかないよ」


ただちょっと、わたしだけ蚊帳の外だなって思った。いろんなことを好きなように知れるなんてずるいよ。そりゃ危ないときだってあるだろうけど。
ベッドから起き上がって、臨也くんみたいにわざとらしいため息を肩を竦めながら吐いてみる。


「シズくんと浮気しちゃおっかな」

「笑えない冗談だなあ」


なんて言いながらけらけら笑う。つまんないの。むかついて肩をパンチした。そしたら、握った手のひらを包み込むように優しく掴まれて、強い力でいきなり引っ張られた。反射的に、後ろ向きで倒れた彼の顔の横に空いていた左手がぼすんと着地する。臨也くんを押し倒す形になってしまった!慌てて退こうにも、うまくバランスがとれなくて動けない。あ よく見たらにやにやしてるよこの人。


「…ちゅーしちゃうぞ」

「喜んで」


弄ばれてる感が否めない。してやられてばっかりだ。でも、どうしても嫌いになれないや。わたし 臨也くんのこと大好きなんだなあ。いつかぽいって捨てられても、特別な人で在り続けるかもしれない。


「臨也くんなんかだいきらい」

「俺は別にそれでも構わないけど」

「くそ むかつくなあ」


ずるい人。わかりきってたことだけど。わたしにも、たまには意地悪させてちょうだいよ。鼻歌まで口ずさみそうな臨也くんの唇に、えいっとキスをしてやった。





おぼれるなら骨のはしっこも一緒に




120320