自分にとって理解の出来ない人間は生きていれば必ず出会うものだ。


「つまりはね」


私の前で早口に人間を如何に愛しているかと薄っぺらい口調でぺらぺら語る彼に出会ったのはつい10分前のことだ。折原臨也。高校の同級生だったのだが私と彼はあまり接点もなく、話したことも殆どない。にも関わらず数年振りにすこしは大人になったであろう私を彼は何故だか目ざとく見つけ、やあと右手をあげて話しかけてきたのだ。化粧はばっちり。髪は何度も染めて痛みっぱなし。服装だってそこらにいるギャルみたいに派手だと思うし、ハイヒールのついたパンプスで彼より多少高い身長のはずなのに、なぜ分かったのだろう。ていうか、コンビニの雑誌コーナーの前でよく恥ずかしげもなくこう声高と喋れるものだ。


「そういうことなんだ。ね 素晴らしいだろう?」

「ごめんね折原」

「なにが?」

「わたし頭わるいから君の言ったことの一割しか分からない」

「きみの頭がわるいのは百も承知だよ」


久しぶりに会った同級生に言う言葉かそれ。


「ごめん、語りが長いから一割しか聞いてなかったの間違いだった」

「きみの集中力のなさは折り紙付きだってことはみんなが知ってるから」

「うっぜ」


さっきからなんなんだこの男は。初対面に近い人間にここまで言うか普通。ああそうだったこいつ高校時代から普通じゃなかった奴だ。だから関わりたくなかったのかもしれない。禄なことにならないと、平和島を見て思っていた。それにしても癇に障る。


「私のこと知りもしないくせにべらべらと勝手な推測ばっかり言わないでくれる」

「俺は情報屋だから推測だけで喋ってる訳じゃないさ」

「は 情報屋?テラワロス」

「ふるいね」

「臨也って言葉はもはや死語だけどね」


ああもう こんなとこで時間潰すのやめよう。とりあえず折原がうざったい。持っていた雑誌を閉じて棚に戻して出口へ向かおうとすると、当たり前のように折原がついてきていて数秒気付かなかった自分に絶望した。ついてくんなよという意味を込めて睨みを聞かせても、折原はにやにやしてるだけだった。


「折原って友達いないでしょ」

「必要ないしね」

「またまたご謙遜を」

「無理して難しい言葉使わなくてもいいよ馬鹿なんだから」

「私がなってあげようか」

「親指を下に向けてる時点でなる気ないよね」


嬉しそうに話す奴は頭のネジをきっとどこかに落としたんだろう。踏まれて錆び付いて最後には平和島によって粉々に粉砕されてしまえばいい。忘れ去ったままでいたかった同級生に、私はあからさまに重い溜め息をついてみせた。





動き出す歯車ワルツ



120309
たぶん続くかも。臨也の口調が迷子。