「…マジで?」


思わず聞き返してしまうほどに 耳を疑った。オレは呆気に取られてなにも出て来ない。なにがって、涙とか、悲しいとか、そういう類のもん。ただ間抜けな問い返しだけが口から勝手に零れ出て、そんな言葉しか言えなかった自分に後々に呆れる。こんなオレをどうにかしてくれ。ショックが大きくて動けない。笑顔で拒否をされるって、こんなオレでも多少傷付く。この、オレが。多少?いや、かなりか。驚きである。今までの出来事は全て嘘だったのかと、そんな事実が津波でオレに襲い掛かって来る。エコーエコー、リピートアフターミー?因みに今日はエイプリルフールではない。


「うん。本当はラビのことなんか大嫌いなの生理的に無理だし笑顔も嘘っぽいし愛してるとかマジない気持ち悪い私がそういう言葉が反吐が出る程に嫌悪してるっていうの知らなかったでしょう。だって言ってないものね、当たり前よね、でも今ここで教えてあげたんだから学んでね、馬鹿の一つ覚えでもいいから。じゃあ改めて言うけど、私あなたのこと大嫌い。愛してなんかこれっぽっちもないわ」


追い討ちだった。石みたいに固まった。彼女の若干低い声と言葉がじわじわと脳内に染み込んで来てああああああマジかよ信じたくねえって耳を塞ぎたいけど意味なんてないよなそうだよな、オレは、なにも言えない、情けない。変わりに冷や汗がたらたら背中を伝っていく。


「ラビ」


まずいぞ、かなりまずい。一ミリも動けないオレの肩に手が触れる。目だけ向けば其処には満面の笑み。清々しいくらいの笑顔。オレの好きな、笑顔。ふれる手の温度がやけに冷たく感じるのは気のせいじゃない。確信がある。火照ったオレの体と匂いに理由があるとすれば、多分彼女の言葉はあながち嘘では無い、と思う。思いたくないけど。午前四時三八分朝帰り。やっべどうしようコレ包丁で刺されてもおかしくない。キッチンはすぐ横にあった。
耳元に息がかかって、それから、一段と低い声で、ぼそり。



「なあんちゃって」





コンクリートに熱帯魚




(浮気性の彼についにキレた彼女)

100627 執筆
120227 加筆修正