長い間連絡がとれなくて、幾夜も眠れない日が続く。私をこの国に残して、あのお方はどこへ消えてしまったのだろう。今頃どうしていらっしゃるのか。きちんとご飯を食べているのか、お風呂に入っているのか、風邪を引いてやしないか、何か危険に曝されてやしないか、ご無事なのか。

「ナマエ! 王子の行方がわかりましたよ!」

突然の吉報が舞い込んできたのは、王子へ思い馳せながら綺麗に円を描く月を見上げていた時だった。すごい音を立てて扉を開けたのは、寝る直前に連絡を受けたらしい母だ。可愛らしいフリルのついたネグリジェを着ていて、年齢的にまだ若いとはいえそれはどうなんだろうと、内心思わないでもない。

しかし、今は母のネグリジェの問題は二の次どころかどうでもいい。それよりも、目の前の母は突然消えてしまっていた王子の行方が判明したと言わなかっただろうか。

「王子は! 王子は今どちらへ!?」
「王子は今、日本にいらっしゃるらしいわ」
「に、日本…? そんな、どうして外国へ…?」

音楽の女神の心が宿る曲に出会い、恋をした。そして彼女の歌を歌うためにアイドルになる。聞かされた内容は、そんな信じられないものだった。
しかし、王子の性格を理解している者なら信じるしかない。王子はアグナパレスのことを大切に思っている故に、それ以上に音楽の女神――ミューズを信仰し、愛しているのだ。

「王子が、すぐに帰国なさらない…」
「えぇ。日本に滞在なさる予定です」
「母さん、私…」
「言いたいことはわかっています。あとのことや手続きは貴女の上司として私が全て請け負いますから、すぐにでも行ってきなさい。セシル王子のことを頼みましたよ」
「はい!」

私の頬を撫でた母さんは、私の返事を聞いて満足そうに頷いた。そうと決まれば、私のやるべきことは決まっている。今すぐにでも日本へ、王子の元へ向かわなくては。アイドルだろうが何だろうが、あの方はどこまでいっても私の大切な王子なのだ。

「母さん、私が留守の間は今まで以上に気をつけてくださいね。間違っても甘過ぎるデザートばかり召しあがらないでくださいよ、身体に悪いですから」
「ナマエ、私のことはママと呼びなさいと言っているでしょう」
「それも毎回お断りしてるでしょう、母さん」

その呼び方の方が可愛いのに、と話を逸らした母に背を向けて、私はキャリーケースを手に取った。


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