ヤムさんの話を聞けば、その島を見つけたのは本当に偶然だったらしい。シンドリアへ向かう商船が竜巻に巻き込まれ、流れ着いた先にあったもの。それは『未開』付近に浮かぶ小さな島だった。何故その島が私のいた国と仮定されるに到ったかというと、その島には私と同じ形の服を着た死体がいくつも倒れていて、極めてその可能性が高いとされたらしい。

その島にある建物のほとんどが焼かれ炭と化し、周囲には異臭が漂い、唯一無事だったのは森の奥まった場所にある木製の建造物のみ。ただ、異様なことにその建物だけは無傷のまま残っているという。しかも、中へ入ろうとしても何か透明な壁のようなものに拒まれ、誰も入ることができなかったらしい。

「まだ決まったわけじゃないけど……なまえの故郷の可能性は高いと思う。私も直接見に行ったからわかる。似てるのは衣服だけじゃなくて、あの島からはなまえのルフと同じような、不思議なものを感じたの」

私がヤムさんの助手をすることになった時、私の周囲のルフが私を囲うように飛んでいて不思議だと教えてくれた。何を調べてもそんな前例はなくてわからないままだったけれど、その島へ行けばきっとわかる。それだけじゃない、呪いの解き方だって色々なことがわかってくるはず。話を聞いてすぐ、一瞬だけ襲った頭痛と小さな胸騒ぎに、理由もなく確信した。

「このことは……皆さんご存知なんですか?」
「いいえ。この情報はあまり外部には漏らさないようにしてあって、国内でも知っているのは発見した者達とシンドバッド様、ジャーファルさんと私達だけよ」
「ジャーファルさんも…?」

そういえば、少し前にジャーファルさんがヤムさんを探していたことがあった。その後すぐ、ヤムさんが数日の間留守にしていたことも思い出した。もしかしたら、あの時島の調査へ出掛けていたのかもしれない。

「私達に教えてくれたのはジャーファルさんなの。私に島のことを調べて欲しいって。ピスティには話を聞く時傍にいてあげて欲しいってね」
「ジャーファルさんってさ、なまえに対してすごい過保護だよね。もしなまえが泣いても、自分じゃ近寄れないし上手く慰めてあげられないだろうからって言ってたもん」
「……あの人は優しいうえに、私を甘やかしすぎですね」

自惚れじゃなく、ジャーファルさんが私のことを真剣に考えて行動してくれているのがわかる。
なるべく私がショックを受けなくても済むように図ってくれていたおかげか、事実を知ってもそこまでショックは大きくなかったような気がする。今回だけじゃなくて、いつもそう。ジャーファルさんは私を気にかけてくれて、そのうえ私の気付かないところでも優しくしてくれるのだ。

私より小さなピスティの手を握り返し、今ここにはいないジャーファルさんを思い浮かべれば、優しく瞳を細めて微笑むヤムさんと目が合って。じんわりと眼の奥が熱くなっていき、滲みそうになる涙を我慢するように笑う。

「ジャーファルさんには、なまえに覚悟があるようなら私が調べた島のことを話して欲しいと言われていたの。だから、さっき確認させてもらったわ」
「話してくださってありがとうございました」
「聞いて後悔した?」
「いえ。行ってみたいと思いました、その島へ。そこへ行けば思い出せる気がするんです」

私の住んでいた島は酷い惨状で、誰一人生き残りがいないかもしれないと知って、すごく悲しくて寂しい気持ちになった。だって、その島へ行って生存者は見つからなければ、私を知っている人も、私が知っていた人も、皆死んでしまっているということだから。いたかもしれない友達や家族、両親がいなくなってしまったかもしれない。そう思うと不安が募る。

それでも尚、行ってみたい、思い出したいと思える。それは間違いなく、私の周りで優しく見守ってくれる皆が傍で支えてくれるおかげだ。

「ですって、ジャーファルさん」
「?」
「いつまでも女の子の会話を盗み聞きなんてよくありませんよー。そんなに気になるなら自分で話せばいいのに」
「それができないから二人にお願いしたんじゃないですか」

ゆっくり開かれた扉からひょっこり顔を覗かせたジャーファルさんは、やれやれと小さく息を吐く。突然現れたジャーファルさんを言葉をなくして凝視すれば、どこか申し訳なさそうに苦笑を返された。

「ジ、ジャーファルさん、いつから聞いてたんですか?」
「……最初から、と言ったらどうします?」
「最初からって本当に最初からですか? 島の話の前からってことですか…!?」
「盗み聞きなんて悪趣味なことをしてすみません。ただ、どうしても心配になってしまいまして」

どこか楽しそうというか、機嫌がいいように見えるのは私の勘違いであってほしい。ヤムさんに問いかけられる前の話題は、思い出すだけで顔から湯気が出そうになる。あの恋愛話を聞かれてしまっていたなんて、まさに『穴があったら入りたい』という心境だった。もし仮に今私が死んでしまったとしたら、死因は羞恥死だろうか。それもそれでまた恥ずかしい。

「余計な心配だったよう安心しました。出会った当初のなまえさんからは想像できないほど、逞しくなっていたらしい」
「余計だなんて、そんなことありません。ありがとうございました。すごく嬉しかったです」

すごく恥ずかしいですけど、と小さく呟く。それを聞き逃さなかったジャーファルさんがクスリと笑い、さらには傍でやりとりを見ていたヤムさんとピスティまで笑い出すから堪らない。いよいよ赤くなってしまったであろう顔を見られたくなくて、慌てて両手で顔を覆い、俯いて隠す。

「ヤムライハ、ピスティ。こんなことを頼んですみませんでした」
「いいえ。私達もなまえのことが心配でしたし」
「友達が友達を支えるのは当然ですよ!」

二人の言葉に恥ずかしさよりも喜びの方が大きくなってゆっくり顔を上げれば、そこには明るい笑顔のピスティと、柔和な笑みを携えたヤムさんがいる。過去の私にもいたのだろうか、こんなにも素敵な友達が。

「なまえさん、私は正直……君が島へ行くことは賛成しかねます。しかし、君が選んだ道なら背中を押すべきだとも思っています」
「ジャーファルさん…」
「島へ行くにはシンの許可が必要になります。ですが、その前に少し話しておきたいことがあるので、日が暮れた頃にでも私の部屋へ来ていただけますか?」

私へ向けられた鋭い眼差しに身体が震えた。ジャーファルさんの言う、話しておきたいことが何かはわからないけれど、その真剣な表情から大切な話だということは伝わってくる。静かに頷けば、ジャーファルさんも小さく頷き返してくれた。



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