訓練生にも実践的な演習を、と一部の武官達から声が上がっていた。候補生になってからカリキュラムに組み込まれるなどゆとり教育も甚だしい、との主張から試験的に二年間プログラムを組み込んでみようではないかと、白羽の矢が立てられた。それが、昨年からの話。

「かったる……」
「気持ちはわかるけど、言っちゃダメだよ」

ふふ、と笑ってアキは空に向かってぐっと身体を伸ばす。演習の内容は候補生のものとは比べ物にならない程簡単…――単なるアイスプリン二体の討伐、おまけに訓練生二人一組の監督として候補生が三人も傍にいる。ただ、こんな万全の補佐態勢をとっているにも関わらず一部の同級生たちは怪我を負っているという話だから、今期いっぱいで訓練生の演習は打ち切りになるだろうとの見通しがついたと噂が流れたのは、ついこの間。

「打ち切りなら打ち切りで、もう止めちゃってもいいじゃん。とはさぁ」
「まぁ、ね」

愚痴を漏らすナギに苦笑しながら、アキは風で乱れたスカートの裾を正して草原に座り直す。程よい眠気を誘う陽気の中では、演習用のプリンを探しに行った先輩二人を待つことすら面倒くさくナギは身体を投げ出すように、ごろりとその場に寝転がる。

「なんかもーちょっと、かっこいい事出来ると思ってたんだよなぁ」
「訓練生じゃ無理無理。俺らですらこんなんだぞー?身の程を知れ後輩っ」
「ちょっ!?髪ぐしゃぐしゃにしないで下さいよ先輩っ!頭撫で回すの反対!はんたいっ!!」

面白そうに頭を撫で回わし続ける先輩の手から逃れようとナギは慌てて飛び起き、ばさばさと手荒く髪をはらう。寝転がったままの状態で撫で回わされた為に付いた草の葉っぱが、幾つか金糸の髪の間から舞い落ちる。

「まだ付いてるよ」
「げ。何処?」
「ここ」

ぴっ、とナギの頭頂部付近の髪の間から草を抜きとってアキは口元に手を当てて楽しそうに笑う。幼い子供のようなやり取りを彼女の目の前で繰り広げた事が急に恥ずかしくなり、ナギと候補生は肩をすくめて苦笑した。

「まっ、目指すんなら1組だな。お前ら二人とも成績も実技もかなりいいし、頑張れよ」

そう言って候補生は笑う。現状、1組に慣れるのは年一度の昇級試験の合格者の中でも指で数えられる程度、しかも初受験時、それまでの素行や成績も加味される。登竜門が如き狭き門、その先に待つのは―最強―という二文字。

「やっぱアキちゃんも1組狙い?」
「うん。どうせなら一番上目指してみようかなって」

一回しかないチャンス、諦めるなんて勿体無いじゃん、とアキは笑う。演習で幾度か組んだ経験上、彼女にはそれを言うだけの実力が有ることをナギは知っていた。自分に自信を持っているアキがなんだか眩しく見えて、ナギはやや瞳を伏せて、そっか、と笑う。

「ナギさんも頑張ろうよ。随分演習で助けて貰ってるもん、実力有るの私知ってるよ」
「え? あ、さんきゅ……」

予想外の彼女の言葉にナギは何故か酷く恥ずかしくなって、誤魔化すようにわたわたと手を振る。なんだなんだ青春かぁ?と茶化す候補生とナギが再び取っ組み合いを始めるかと思った時、候補生のCOMMが鳴った。

「はいよ。……おー、了解」

笑みが消え、真面目な表情になった候補生の様子にナギとアキは立ち上がって武器を構成する。二人が武器を構えたのを確認した候補生は、すっと掲げた右手を勢いよく振り下ろした。



*****



それから十分も経たないうちに二人の演習は終了した。辺りに群がるアイスプリンをアキがブリザドBOMで凍り付かせ、魔法の範囲外にいて逃げ延びたプリンをナギが的確に仕留めるというコンビネーションの賜物である。

「思ったより早く終わったね」
「だな。あ、そういえばアキちゃんって有志組?」
「うん、そうだよ。どうせならって思って」
「そっか」

有志組――それは実習対象外の下級生、かつ希望を出した者たちの中から選ばれた者達の呼称。特出した成績の持ち主であるとかポテンシャルが高いなど、選考の基準は多々あるようだが、彼らの大半が後に1組に配属しているというのは周知の事実。それをぼんやりと思いながら、お昼をとろうとナギは大魔法陣に足を踏み入れる。

「あ!お昼はリフレ休憩時」

そんなアキの声が微かに耳に届いた所で視界は反転、発動した魔法陣の移動の最中ナギは頭を掻き、昼食は寮飯だったよ忘れてたと溜め息を吐く。そして若干の不快感が消え、地に足が着く感覚と共に顔を上げたその視線の先。

「んれ?ナギ?」

マスターの前、カウンター席に座りほぼ空のパフェグラスとスプーンを手に、目をまるくしてこちらを見るキリアと目があった。





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