隣に居る事が当然で、共に在る事が必然だった。戦場を華麗に舞う白き機体、それが視覚に映る我らの絆。

「首尾はどうだ」
「だいぶいいよ、カトルが取ってきたデータのおかげで改良もかなり進んだし」

ボルトを締めてガブリエルを愛おしそうに眺めながら彼女は静かに語る。床の上に散らばる設計図や様々な機具、そして何より深く刻まれた眼の下の隈が彼女の努力を窺わせる。持ってきたコーヒーを渡し、改良がされたガブリエルを眺めカトルは、微かに感嘆の声を漏らした。

「一番の変更は装甲材の改良と魔法障壁の稼働時間。…ま、機敏性が高い分そこはブラックバーンに劣るけど」
「全部、取り替えたのか?」
「うん、前のやつ強化した魔法障壁に耐えられ無かったんだよね。だからセラミックスの配合を変えてメタルとの」
「…細かい所はいい」

お前の語り出すと止まらない癖は時に厄介だ、と溜め息を吐くカトルに彼女は肩を竦めて苦笑を返す。昔馴染み故に対等に言葉を交わしているが、カトルの准将という肩書きは飾りではない。他に誰も居ない深夜だからこそできる所業だ。

「…やっぱカトルの淹れたコーヒーが一番美味しい」
「お前の淹れ方が雑過ぎるだけだろう」
「……わかっちゃいるけど時間勿体無いのよ」

悠然とコーヒー淹れてる暇あったら図面引いてるし、と彼女は笑う。機械油で黒ずんだ白衣が機械好きの最たる証拠だな、と呟いたカトルが今度は肩を竦める番だった。

「あ、そだ…一つ、聞いてもいい?」
「言ってみろ」
「…子供、って本当?」
「朱の魔人、か」

十六、七歳くらいに見えたな、と告げれば彼女は途端に険しい表情になって眉根を寄せた。成長著しい年齢である事を懸念しての事なのか、それとも別の事なのかどうかは読み取れずカトルはただ黙ってコーヒーを啜った。

「………目一杯怒られた歳だっけ」
「そう、だな」
「楽しかったよね……」
「……ああ」

追憶に消えた平和。突き付けられた現実に、本格的に立ち向かい出したのは二十歳を過ぎた頃から。身分差故に忍ぶように二人過ごした十代、守られているという実感が何よりもあったあの頃。そう思う程に、盲目的に朱雀の為に戦う彼らが哀れに感じてくる。

「戦争って……虚しいね」

ガブリエルのボディを撫でながら彼女は伏し目がちに呟く。部下や兵士の言葉であれば聞き逃す事の出来ないその台詞には返事をせず、カトルはマグカップを棚の上に置き、彼女の傍へと歩み寄る。血が滲むのでは無いかと思う程に強く握り締められた彼女の、リリアスの手をとって優しくほどく。

「お前の手は汚れていない」
「ガブリエルをブラックバーンを生んだ、私の手は汚れてるも同然だよ」
「否、それは乗り手たる我の罪。お前の手は……あの頃と変わらず綺麗なままだ」

爪の食い込んだ跡の残る手のひらを包み込むように手を握り、カトルはリリアスの細い腰を抱き寄せる。宥めるように頭を撫でてやれば、控えめに彼女はカトルの胸板に額を乗せた。

「早く、早く終わらせよう」

結末がどちらに転んでも、と哀しげに呟いたリリアスを抱き締めてカトルは一つ、確かな声音で言葉を返す。彼女の瞳に微かに滲んだ涙を指先で拭いとってただただ優しく微笑む。

「我との約束は覚えているか?」
「…もちろん。鋭意製作中よ、私が普通に淹れたって美味しくないもん」

試作機はそこにあるんだけどねー、と苦笑気味に彼女は笑う。お前の淹れた旨いコーヒーが飲みたい、といった言葉に対するリリアスらし過ぎる返答の結果に視線を向けてカトルは、ふっと笑みを零した。

「カトル?」
「リリアス…お前には本当、頭が下がるな」

繋いでいた手を持ち直し、つい、とリリアスの手を持ち上げてその指先に唇を寄せる。その行動の真意が解らず、ぱちくりと瞬きを繰り返す彼女の頭を撫でてカトルは少しだけ腰をかがめてリリアスの耳元で囁いた。

「        」






その未来が早く訪れることを祈って。





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