いないな、なんてふと思ってしまってエイトは顔に手をあてて自分に呆れた様子で息を吐く。最近こればかりな自分に嫌気がさして、陰気な気分を払うために闘技場へと足を運んだ。事の発端は自分なのだからもう何も言うまい、とエイトは決めていた。溜め息混じりの鍛練はキレがなく、志気が振るわないと半ば苛立ちながらも結局そこで三時間も浪費した。

「エイト」
「 …なんだ、エースか」
「なんだ、とは酷いな」

腰に両手を付いて、苦笑するエースにすまないと謝ってエイトは彼が来た理由を問うた。マザーが呼んでいると言われ、わかった、と二つ返事で答えて魔法局に向かうべく闘技場を後にした。

「はい、これで終わり。どこも異常なしよ」
「ありがとう、マザー」
「いいえ。…最近悩んでいるようだってエースから聞いたわ。お母さんでよければ話に乗るわよ」

そんなアレシアの言葉に一度は口を開きかけて、エイトはゆっくりと首を横に振った。自分で引き起こした問題くらい自分で片付ける、と伝えればアレシアは頑張ってねと言って微笑んだ。魔法局を後にして、教室に向かう途中でクリスタリウムに消える彼女が視界を掠めた。隣には見覚えのあるバンダナの彼奴がいて、らしくもなく人前で舌打ちをした。

「よぉエイト」
「サイス…」
「ずいぶんと機嫌悪そうだねぇ」
「……ほっといてくれ」

やれやれと肩を竦めたサイスはやや哀れんだような視線をエイトに向け、その肩をポンと手で叩く。まー頑張れよー、と気のない言葉を残して彼女が大魔法陣に消えるのを眺めてエイトはまた一つ溜め息を零す。


事の発端。それを端的に言うならばうざいから近付くな、とエイトが彼女に言った、ただそれだけである。
本当に、ただそれだけ。
けれどその日を境に彼女はぱったりとエイトの傍、それどころか0組の教室にすら顔を出さなくなった。

「…くそ」

あの騒がしさに慣れてしまったというのか。くるくると留まるところを知らないかのように変わる表情に、何時しか惹かれていたというのか。それこそ、無くてはならない、空気のように。





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