「この…なんちゅうかな…このへんのカーブがな、全体のバランスを考慮するとな、素晴らしいと思うねんな俺は」
「ぜんっぜん分からん」

部活前。俺が漢字に対する熱い思いを語り終わると同時に、謙也がそれを一蹴した。
そもそも何故こんな話をしているか。それは六時間目に、俺が謙也の国語の小テストを見てしまったからだった。


*
「うわっ…謙也お前それ…」
「さいっあくや!丁寧に書けやて!書いとるやんなあこれ!?」

謙也の字があまりに汚いため、2点引かれている。謙也は丁寧に書いてある、と息巻いているが、正直言って。

「きったないわアホ!漢字テストやねんからもっと綺麗に書けや!」
「え、ええ?普通やん!綺麗とはいかんけど、これ普通やない!?点引かれんのはおかしない!?」
「お前…俺のこの字を見ろ!」


満点(別に点数を自慢している訳じゃない)の小テストを謙也の前に突き出す。自分で言うのもなんだが、全ての文字を無駄なく丁寧に書いている。

「ええ?たかが小テストやのに…こんな習字みたいに書かんでも…」
「お前…分かってへん…分かってへんわ…」
「えええ?」
「ええか?この漢字見てみ?……」


*

話は冒頭に戻る。
俺は教室から部室まで、漢字に対する思い入れをつらつらと述べていたのだ。


「あとは…そうやな、例えばこの"麗"って漢字や。俺はこの漢字のこのカクッとなるとこと、この、ここのシュッとなるとこが素晴らしいと思うねんか。まさに麗しい」
「知らんわ」
「ほんでな、こうカクッ!シュッ!っと書き終わった瞬間!そうこの瞬間や!」


謙也が何かかわいそうなものを見る目をしているが気にしない。俺は力強く言い放った。


「エクスタシー…っ!」
「わかったからそのやらしい顔止めて下さい」
「ちなみに俺難しければ難しい漢字ほどエクスタシー感じんねん」
「知らんわ!」




あーあ、これやから謙也は毎回5点引きやねん。深いため息をつき、部活を始めるべく、俺は集合の声をかけた。






下田様:あらら
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