森山視点(回想)


紗夜ちゃんの手首をつかんで、本人の意思を確認しないまま俺は適当に空いてる教室に入った。紗夜ちゃんはどうかしたんですか?と相変わらずの口調で話しかけてくる。俺は、そんな紗夜ちゃんが今でも好きだ。


紗夜ちゃんとは、俺の方が先に出会ったのに。俺の方が先に好きになったのに。初めて、本気で好きになったのに。やっぱり俺は笠松には勝てない。それが、悔しくて仕方なかった。


「ねぇ、紗夜ちゃん。なんで、俺じゃダメだったの?何で笠松なの?ねぇ、何で?」


紗夜ちゃんの手首をつかむ手の力がどんどん強くなる。そして、気がついたら俺は紗夜ちゃんを壁際に追い詰めてきた。でも、紗夜ちゃんは狼狽えることなく俺を見て言った。


「森山先輩、すいません。何で森山先輩がダメなのかとかそういうのはわかりません。でも、私は幸男くんが好きなんです。森山先輩がダメなんじゃなくて、幸男くんがいいんです。森山先輩のおかげで幸男くんに出会って、好きになった。本当に感謝しています。森山先輩は、これから私なんかよりも素敵な人に出会いますよ。だから、私なんかのことを引きずらないでください。」


まっすぐに俺を見る目。ムカつく。この子も、笠松も。何で、俺じゃなくて他の男でもなくて、笠松なんだよ。なんで、二人して俺にお礼とか言うんだよ。


「笠松じゃなくて、もっと別の男いただろ?…そうだったら、笠松じゃなかったら、無理矢理奪ってでも紗夜ちゃんを俺のものにするのに。でも!二人が両想いなの知ったら!協力するしかないだろ?俺は紗夜ちゃんが好きだ。大好きだ!でも、笠松だって、大切な友達なんだ!仲間なんだ!だったら、二人に幸せになってもらうしかないだろ?!」


流れそうな涙を必死に堪える。カッコ悪い?どうでもいい。今は知ってほしかった。俺がどんな思いで紗夜ちゃんを好きでい続けたのか。どれだけ、紗夜ちゃんが好きか。…どれだけ、二人のことが好きか。


「…少し、少しの間でいいから…抱きしめさせて?」


紗夜ちゃんは苦笑いをしながら俺の頭を撫でた。


世界でいちばん
(選べないくらい)
(大切なものがある。)



 


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テーマ「人外ファンタジー」
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