病院の中に入ったはいいものの、どこに病室があるのかわからなくて玄関ホールでうろうろしていたら、あの子が笑顔で走ってきた。ものすごくいい笑顔だからほんとに病人なのか疑ったけど、看護師さんに怒られている様子から考えて彼女は患者なんだろう。


「遅いぞ、少年!アタシがどれだけ待ったと思ってるの?」
「ものすごく?」
「分かってるんだったら早く来てよね!」


エレベーターで五階まであがって、降りてすぐの廊下を左に曲がる。突き当たりから二番目の病室には512と書かれていてその下には瀬野尾美知とネームタグが貼られてある。


「アンタ、瀬野尾美知っていうんだな。一人部屋?」
「そうだよ!一人部屋は楽だけど寂しいんだよね。いつでも来てくれていいんだよ!」
「いかねーよ!ほら、病人なんだったら早く寝ろよ。」


病人扱いしないでよ!、って返されたけど無視して瀬野尾さんをベッドに押し込んだ。


「元気なのにー。てか、人間1日何十時間も寝れないからね!お話しようじゃないか、少年。」
「少年って、アンタ何歳だよ。」
「アンタじゃなくて美知ね!美知!呼び捨てで構わないから!」
「何歳ですか、瀬野尾さん。」
「くっそ、生意気なガキだな!」
「美知ちゃん?珍しく賑やかなのはいいけど、ここ病院だからねー。」


いきなりドアが開いたと思ったら、看護師さんだった。俺を見て少しびっくりしてたけど、注意をしたらすぐにドアを閉めて去っていった。


「ほら、君が名前呼ばないから怒られたじゃん。あ、そーいや君の名前は?何年生?それ、海常の制服だよね?」


目をキラキラさせながら質問してくる瀬野尾さんはまるで、好奇心旺盛な小学生みたいで。それが逆に、無理をしているのを隠しているようにも見えた。


「笠松幸男、海常の高2だよ。」
「高2かぁ。じゃあ今が一番楽しいんじゃないの?彼女いないの?幸男くんかっこいいし、モテるでしょ?」
「別にモテねーよ。彼女だっていない。瀬野尾さん学校は?」
「…アタシ19歳なんだけど。」


え、19歳?てことは俺+2?じゃあ高校卒業してるじゃねーか!


「アンタの高2はどうだったんだよ。彼氏は?」


そう聞いたら、瀬野尾さんは一瞬暗い顔をしたけど、それはすぐに苦笑いへと変わった。


「アタシ小さい頃から入院退院の繰り返しだったからさー。高校も同じ、だからあんま行けなくて途中でやめたんだよね。いつ死ぬかもわからないし、彼氏つくるってか人を好きになるのが怖かった……はずだったんだけどなぁ。」
「はずだった?」


聞き返したら瀬野尾さんは照れるように笑って、若干俺から目線をそらした。


「アタシ、幸男君が好きみたい。」


怖くて恐くて
(決められた刻の中で)
(忘れられない恋をしよう)



 




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