「あーおーいーちゃん!勉強教えてー」

ノックもせずに理事長室に突撃して、唖然としてる葵ちゃんの目の前に教材を突きつける。

「…お前なぁ……部屋に入るときはノックぐらいしろっていっつも言ってるだろーが」
「来客中じゃないのをちゃんと確認してるから問題ないの。ほらほら、そんなことどーでもいーから、勉強!」
「そーゆーのは桔梗ちゃんに頼めよ。なんで俺が…」
「桔梗ちゃんはね、葵ちゃんのお仕事を代わりにやってるから忙しいんだってさ。
『それなら葵さんでも出来るでしょうから、葵さんに聞いてきてください』って言われたもんね」

桔梗ちゃんの声色を真似して言うと、葵ちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をして、ため息をついた。

「はぁ……めんどくさ…」
「葵ちゃんの自業自得でしょ。こっちだってテスト近くて必死なんだから」

理事長室にある、来客用のテーブルに教材を広げて、葵ちゃんと向き合って座ろうと思ったら「違うだろ」という声とともに腕を引かれる。
そのまま、ストンと葵ちゃんの隣に座った。

「…なんか間違ってない? 近くない?」
「気のせいだろ。で、どこが分からないんだ?」

教材を覗き込む形で、ナチュラルに顔を近づけてくる葵ちゃん。
セクハラ理事と呟くと、それが聞こえていたのか「セクハラじゃなくてスキンシップだよ」と返された。

「葵ちゃんのなかでのスキンシップとセクハラの違いについて聞きたい。
っていうか、相手が嫌がったらセクハラなんだよ。知ってた?」
「何? いやなの?」
「別に嫌じゃないけど」
「ならいいだろ。ほら、どこが分からねーんだよ」
「これとこれとこれ」

問題を指し示すと葵ちゃんはその一つ一つをすごく丁寧に説明してくれる。
実際普段の葵ちゃんの様子からは想像が出来なくて、思わず笑いが漏れた。

「あのなぁ…人が折角教えてやってるのに笑ってんじゃねぇよ」
「や、だって…葵ちゃん、いっつも不良理事なのに…なんか今はすごく頭良さそうに見えるから、そのギャップが…」
「…もう教えてやらな「うそうそ! 冗談だから! だから教えて、お願い!」

不穏な言葉を途中で遮って、手を目の前であわせる。
ここで止められてしまったら今回のテストは大変なことになってしまう。(特に現代文だけはいい点を取らないと、後が色々と怖い)
何度かお願いを繰り返して、ようやく葵ちゃんは機嫌を直してくれた。


「…で、これはここを説明してるんだよ」
「つまり、ここを言いたかったの?」
「そーゆーこと」
「はー…なるほどね……。あ、これで終わりだ」

数十分後。分からなかった問題を全部解き終えて、私は大きく息を吐いた。

「葵ちゃん、ありがと」

お礼を言って、立ち上がろうとしたところを、葵ちゃんに腕を引かれて(また!?)再び座りなおす。

「え、何、葵ちゃん」
「ここまで頑張った俺にお礼はないの?」
「え、だから、ありがと、って」
「俺がそんなので満足すると思った?」

葵ちゃんが、にやりと笑う。(あ、すごく嫌な予感)
動物的直感に従って、立ち上がって逃げようとした身体を、葵ちゃんに抱きとめられて、

「逃がさねぇよ」

低い声で耳元で囁かれれば、逃げる気力すらなくなってくる。
私が観念したのに気付いた葵ちゃんが低く笑う声を聞きながら、絶対に葵ちゃんに勉強は習わないと心に決めた。



(PLEASE HELP ME!)