※注 佐かす前提なので嫌いな人はリターン推奨!


(鮮やかに抉る 軽やかに捻る)(ああ、あなたはいつも)


カタン。と音がして振り返ると、いつのまに教室に入ってきたのか、佐助が立っていた。

「あれ、名前ちゃん。こんな時間まで勉強? 偉いね、旦那にも見習わせたいよ」
「え? こんな時間?」

佐助の言葉に時計を見ると、その針は既に8時を指していて自分がこんな時間まで教室に残っていたことに、少し驚く。
私の机の上には、4時から始めたくせに全く進んでない数学のテキスト。
佐助は私の机まで歩いてくるとそのテキストを手に取った。

「って、これ今日勉強したとこじゃん。もしかして全然進んでない?」
「え、あー、うん。まぁ、そうだけど」
「何時から始めたの?」
「えーっと、4時ぐらい、かな」
「4時!? で、これだけしか進んでないわけ?」
「う゛……。わ、私数学は苦手なの!! 実際数学なんて将来必要ないじゃん。四則演算さえ出来れば人間困らないのさ」
「うわ、旦那と同じこと言ってる」
「え、それはやだな」

私がそういうと、佐助は「ちょっと、それは旦那に失礼でしょ」と言い返した。
その後で「ま、俺様も旦那と同じって言われると嫌だけどさ」と言ったので、「佐助だっておなじじゃん」と返して、二人で笑う。

「で、佐助はこんな時間まで何してんの? 部活?」
「部活はテスト期間で休みでしょーが」
「あ、そっか。んじゃ、幸村がらみで?」
「あのさ、俺様だっていっつも旦那にかまってるわけじゃないのよ?」
「ふむ。じゃ、どして?」

そこまで聞いたところで、答えなんて一つしか残ってないことに気がついた。
私の、馬鹿。自ら墓穴を掘るだなんて、馬鹿もいいところだ。
元就あたりはきっとものすごく見下して鼻で笑って「愚かだな」とか言うかも知れない。
(リアルにそれがイメージできるあたり、間違っちゃいないんだろうな)(ああ、でも元就は根は優しいから、その後慰めてくれるのかもな)
もう質問してしまっている以上、時は戻せないし答えを聞くしかないということは分かっている。
分かっているけれど、やっぱりその答えを聞くのは凄く嫌だ。

「あー。アイツが、上杉先生にお菓子をあげるからっつって作るの手伝わされちゃったんだよね」
「へ…ぇ。そう、なんだ」
「そ。なーんで俺様が他の男にやるお菓子作りを手伝わなきゃ生けないんだか」
「それで、こんな時間まで? 災難、だった、ね」
「ほーんと。んで、俺様には無いの?って言ったら貴様にやる菓子は無い!だもんな」

口調は嫌そうでも、佐助の顔はどこか幸せそうで。
やっぱり私は、あの子には敵わないんだと、実感した。

「あ、じゃ、私、もうそろそろ帰るね」

これ以上佐助と話したらもうどうにかなりそうで、私は机の上のテキストと筆箱を乱暴に鞄の中に突っ込んで、立ち上がった。

「一人で大丈夫? なんなら俺様が送っていくよ?」

その申し出に、心臓がドキンと高鳴った
でも自惚れちゃいけない。これは、ただの優しさで。私は、佐助にとっては、そこそこ仲の良いただのクラスメートなんだから。

「や、大丈夫。8時だけど、家、近いし。外も明るいし。それじゃ、バイバイ」
「バイバーイ」

軽い調子で見送られて、急いで教室を出る。
誰も居ない廊下を走って、昇降口を突っ切って。
校庭に出たところで、ふとクラスの窓を見上げると、佐助が立っていて、私が見上げてることに気付くと手を振った。
ずきり、と心臓が痛んだけれど、私も笑顔で手を振って、今度は振り返らずに正門まで走り抜ける。
この想いが叶うことなど無いと知っているのに、この想いを捨てるには佐助は私に優しすぎて。
ずきずきと痛む心臓を押さえて、私は家へと走り出した。


(あなたはいつも、私の心を傷つける)(いっそ愛さなければ良かったのに)