そうしようと思ったのは、清光が見ていたドラマの1シーンをふと思い出したからだった。恋人同士が、真冬のデートで手を握りあって暖かいねと微笑みあう。二人とも手袋すればいいのに、と溢したらお前は何も分かってないと清光に呆れられた。
曰く、好きな人とだからこそ素手で少しでも体温を分かち合いたいものだ、とか何だとか。真面目に聞いてなかったから大半の内容は忘れてしまった。
数歩先を歩く主の背中から少し目線を落とせば、頼りなさげにゆらゆら揺れる小さな手。
それをひょいと掴んでみたら「わあ、」となんとも間抜けな声が主から飛び出した。

「どうしたの、安定」
「冷えてるだろうから、暖めてあげようかと思ったんだけど」

そこで言葉を切って、心のなかで失敗しちゃったなと続けた。外気に晒されていた手は、予想通りにとても冷たい。そこまでは良かった。
予想外だったのは、自分の手も同様に冷たくて、暖を取るには少々、いやかなり難しそうなことだけだ。
よくよく考えてみれば自分だって主と共に外に居たんだから冷えているに決まってる。全く、慣れないことはするものじゃない。

「ごめん、僕の手も冷たかった」
「あはは、なにそれ」

他愛もなく笑い飛ばされ、苦笑を返す。手を離そうとすると何故か逆に主から強く握り返された。

「今は冷たいかもしれないけど、こうしてれば大丈夫だよ」

僕のそれより一回りほど小さな手が、僕の指先を包み込んでいる。
思い返すとこうやって主に触れられたのは初めてのことのような気がして、僕のとは違って華奢で可愛いなあとか、思っていた以上に柔らかくて触り心地も良いんだなあとか、そういうことを意識するとかあっと顔に熱が集まってくる感覚がする。
…今なら清光が言ってたことがほんの少しだけ分かるかもしれない。

「あっほら、だんだん暖かくなってきた!でしょ!?」

得意気な笑顔でそう言う主には悪いけど、それ多分単純に僕の体温が上がってるだけだと思う。



(その温かさに触れてみたい)