txt | ナノ

( 一歩を踏み出す勇気 )


最近何となく、一緒に過ごす時間が多くなってきたような気がして。
何となく、二人でいるといつもよりたくさん笑ってるような気がして。

水鳥さんにからかわれてカァッと頬が熱くなった時に何となく、自分の気持ちを自覚したような気がした。


「あ…」
「…よォ、」


サッカー塔を出ると、まず目に入ったのは特徴的な後ろ頭。

小さく声をもらした私に気付き、階段に座っていた剣城くんが携帯をポケットにしまいながら立ち上がる。


「…じゃあ、僕たち帰るね!バイバイ、剣城!」
「えっ?せっかくだしみんなで…」
「天馬!空気読んでよ!」
「えぇっ?ちょ、信助ー!」


不思議がる天馬を引きずるようにして足早に去って行く信助に、剣城くんは大きな舌打ちをした。

怒ってるのかな、と思ったけどそういうわけでもないらしく、小さく聞こえた「行くぞ」の声に、慌てて並んだ帰り道。

気を遣われる覚えもなければそんな関係でもないのに、何だか妙に恥ずかしい。


「あの…何かごめんね。信助が変なこと言って…」
「…別に。てゆーか、お前が謝る必要ねーだろ。」
「あ、うん。そうなんだけど、」


否定も肯定もしない剣城くんに、待っててくれたのかな?っていう期待が、浮かんでは消える。

足並みが揃って、だんだんゆっくりになって、他愛ない会話が繋がる度に、何となく、から確信へと変わっていくひとつの気持ち。

私。
剣城くんのこと…


「…あのさ!」
「…?」


立ち止まれば、一歩先で剣城くんが振り返る。


「…あのね、」


この距離を縮められるかは、きっと私次第。



一歩を踏み出す勇気
叫ぶように伝えた直後、彼の頬が赤く染まった



( あとがき )
主催企画「赤と青」に提出。
何て安直な文なんでしょうか…
皆さん、主催がこんなですみません!


title by:確かに恋だった