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( 片想い卒業記念 )


「空野さんって松風くんと幼馴染みなんだよね!!」
名前も知らない女子生徒から天馬の事を聞かれた葵は驚いた表情を浮かべた。
「うん。幼馴染みだよ」
「なら、空野さんにお願いがあるんだけど…」
そう言って女子生徒が葵に渡したのは可愛らしいピンクの封筒。
それを見た葵は僅かに表情を曇らせてしまった。
「これって…」
「松風くんに渡して欲しいの!!幼馴染みである空野さんなら渡せると思ったから!!それじゃ、お願いね!!」
「ちょっと…!!」
葵に手紙を渡したら女子生徒は自分の教室に戻って行く。
一方、手紙を預かった葵はそんな冷静にいられなかった。
目の前にある封筒は先程の女子生徒が天馬に対する気持ちを綴った想いの結晶である。
葵はその手紙を天馬に渡すだけなのだが、どうしても渡す気にはなれなかった。
何故なら、葵も天馬に好意を抱いているのだから。
だからといって、手紙をそのままにして置く訳にはいかない。
葵は深い溜め息を漏らすと渡すタイミングを考えた。
教室で渡すのもクラスメイトから冷やかしが飛んで来るだろうし、部室で渡しても浜野辺りにからかわれるのも目に見えている。
本来なら断るのが妥当なのだろうが、一方的に渡されたら出来るはずもない。
「帰りに渡そう…」
その手紙を葵は鞄に入れる。
ズキズキと痛む胸には気付かないフリをしてそのまま机に突っ伏した。
そして、時はあっという間に過ぎて天馬との帰り道。
葵は鞄から手紙を取り出すと隣を歩く天馬を見つめる。
天馬は機嫌がいいのか鼻唄を唄いながら歩いていた。
葵は手紙と天馬の顔を見比べながら、いつ手紙を渡そうか考えていた。
だが行動には移せないのは、この手紙を渡す事を躊躇うのは葵の中にある天馬への気持ちが溢れて来るから。
気が付いたらポロポロと葵の瞳から涙が零れていた。
「わっ!!葵、どうしたの?」
驚いた天馬が葵に声をかけた。
「どうしたの?何か嫌な事でもあったの?」
「て、手紙…」
「手紙って…。この手紙どうしたの?」
「天馬が好きな女子生徒から天馬にって預かったの…。でも、天馬に渡すのどうしても出来なかったの…。だって、私も天馬の事が好きなんだもん…」
ああ、とうとう言ってしまった。
塞き止められていた想いは溢れては止まらない。
目の前にいる幼馴染みは困り果ててるに違いないだろう。
だが、それは葵の思い込みにしか過ぎない。
ビリビリと何かを破る音がした。
顔を上げると、天馬が女子生徒からの手紙を破っていた。
「天馬…!!何して…?」
「葵って本当に鈍いよね。それに知らない女子からの手紙なんて俺はいらないよ」
「それって…」
「俺も葵が好きだよ。いつも葵が俺の隣で笑うだけでドキドキしてたから。葵が好きだって気付くまで時間はかからなかったよ」
そう言って天馬は葵の涙を優しく拭うと耳元で囁いた。
「葵が良かったら、これからも俺の側でずっと笑って下さい」
そんなの答えは決まっている。
コクリと葵は頷くとそのまま天馬に抱き付く。
天馬もそんな葵を優しく抱き締めた。
長かった葵の片思いに漸くピリオドが打たれた。


片思い卒業記念
(これからゆっくりと私達の物語を作っていこうね)