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( 隣同士が一番自然 )



いつも通りに私は天馬を誘って、雷門中への道を歩く。
入学してから変わらずに、こうして隣に並んで…今はたまに信助がいたりするけど私の隣はいつも天馬がいる。


「ねぇ葵。」
「ん?どうかした天馬。」
「あの、さ。」


歯切れが悪そうに天馬は私を見つめ、足を止めたから私も同じように足を止めた。どうしたの?と聞いてもなかなか答えをくれず、一歩近付いて天馬?と名前を呼んだ。


「昨日…あの、葵…告白、されてたよ、ね?」


天馬から漏らされた言葉に、私は昨日呼び出しをされたのを思い出してあぁ、あれのこと?と頷いた。勿論告白、に違いなかったけど私経由で音無先生に手紙を渡して欲しいというお願いだった。
変な勘違いされたらあの子も私も困るから訂正をしようとあのね、天馬と口を開いた瞬間…真っ赤になった天馬が私の肩を力強く握り締めて真っ直ぐに見つめてきた。


「天馬?」
「俺、葵と一緒にいられなくなるの嫌だ!」


突然放たれた言葉の意味が分からず首を傾げれば、天馬は尚も私を見つめ肩を掴んでいた手を離し…ギュッと今度は手を握り締め好きなんだ、俺…葵が大好きだから他の人のとこに行かないでと予想外に急に告白、された。

私はその言葉に一瞬反応出来なくてえ?え?と真っ赤になりながら天馬を見つめるだけだったけど、側を通り過ぎる雷門中の生徒の冷やかす声に我に返り…現実に戻された。


「っ、天馬の馬鹿ー!」


手を振り払い、真っ赤な顔で私は天馬を見つめるけど…違う、違うのこんな告白。葵?と不安気に私を見る天馬の気持ちを分かる事よりも、ちょっと告白のシチュエーションとかに夢見ていた私は涙を浮かべた。


「あ、葵?ゴメン!泣くほど俺からの好き、嫌だった?!」


天馬からの好きが嫌?それは違うよ。凄く嬉しい、天馬が私を好きな事は嬉しい。けど…


「何で、こんな人前なの!?」
「えっ?」
「もっと…人目のない静かな場所で二人っきりの告白が良かったのに!」
「なっ…そんなの、俺が考えつくわけないって葵なら分かるだろ!俺は、今!葵を好きって伝えたかったんだから!」
「それでも、天馬の馬鹿!」
「〜っ、葵のわからずや!」


何でか分からないけど、大袈裟な喧嘩へと発展してしまった。

結局告白なんかなかったかのように、視線を合わす事なく距離を空けながら私と天馬は学校へと向かう事になった。
学校に着いてからも話すことなく部活時間になって、日直である天馬を待つ事なく私はサッカー塔へ向かい先に来ていた先輩マネージャーの山菜先輩と瀬戸先輩、顧問の音無先生の元へと無言で飛び付いた。


《それ、は松風くんが悪い。》
《そうよね…やっぱり女の子は告白されるのって憧れちゃうから夢あるものね。》
《堂々にも程があるだろうが、天馬の奴。》


よしよしと山菜先輩に頭を撫でられながら、私はその身体に抱きついてそうなんです、夢があったんですよと呟いた。
サッカー部の皆さんと天馬が入って来て、私の様子にどうしたんだ?と尋ねて来たから瀬戸先輩が説明し始めたけど…あっ、やだ、何か恥ずかしいとか明らかに身内問題な気がして瀬戸先輩を止めようとしたけど一足遅かった。


《あんまりにも堂々とし過ぎって思わねぇか?》
《男らしくていいんじゃねぇ?》
《倉間くん、絶対に女の子傷付ける。》
《でも、空野の事好きな気持ちはホントなんだしいいんじゃね?》


何でか先輩達が言い争いに発展し始めて、ミーティングルーム内は男子vs女子みたいな形になってしまった。


《男共は本当に女心わかんねぇ奴ばっかりだよな!》


うんうんと山菜先輩が頷いて返事をしてたらミーティングルームの扉が開いてキャプテンが現れた。何の騒ぎなんだと漏らしながらサッカー部員の元へと連れられて行かれた。


《ねぇ空野さん。》


こんなに大袈裟にしたいわけじゃなかったのにと、けど天馬は酷いと今だに思っている私に音無先生が隣に来て微笑んだ。


《確かにそんな皆の前での告白は恥ずかしいし、二人っきりの告白って憧れるのも分かるわ。でも、空野さん…その嬉しいって気持ちは伝えた?》
「えっ?」
《天馬くんになら、嬉しいって気持ちもあるけど告白は二人っきりが良かったっていう気持ち…ちゃんと言えば伝わると思うな。》
「嬉しいって気持ち、ですか?」


そう、ちゃんと伝えた?と問われて少し考え込む。あっ!と私は今朝のやりとりを思い出しながら肝心の嬉しいという気持ちを言っていなかった事に気付き、天馬の方を見れば…先に天馬が私のとこに走って来て…手を握られた。


「天馬、私…!」



そのまま引っ張られるようにしてミーティングルームを連れ出され、私はひたすらその引かれるままに走った。


「天、馬!あのね私「ごめん葵!」え?」


急に足が止まったせいで、私は止まれきれずに天馬の胸に突撃して…ギュゥっとそのまま抱き締められた。


「ちゃん、と…ちゃんとやり直すから…葵…俺以外を好きにならないで!」
「………っ………天馬、私ね嬉しかったの。天馬からの好きって言葉、凄く嬉しかったの。」


私からも抱き締めてくれる天馬の体に抱き着き、ちゃんと伝えた。嬉しかったんだと。そしたら天馬は真っ赤になって、それからやったー!と私を抱き締めながら喜んで…葵大好き!と私の大好きな笑顔で伝えてくれた。


「私も、天馬が大好きだよ!」


だから私も、しっかりと今度は伝えた。



たった一日だったけど、隣に天馬がいないのは嫌だった。側で笑う天馬がいないのは、私の普通じゃない。
手を繋いだり、こっそりキスしたり、大好きと言い合いながら…私は天馬の大切さに何度も気付くんだ。






隣の空いた空間は誰が埋めてもいいんじゃない、天馬がいいんだよ