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電伝虫の交信によってお互いの位置を把握した白ひげ海賊団とハート海賊団は、ルフィの後を追って来たハンコックの計らいによって女ヶ島へと着岸することになった。
白ひげ海賊団ではサッチを筆頭に、ハート海賊団ではシャチを筆頭に、そして、インペルダウンの一部の囚人達。
挙って鼻の下を伸ばしてウハウハだった男達の夢は、『男子禁制』の文字を前にして儚く散った。

「「「ああああ! 夢の島がァァッ!!」」」
「アホがいるとお互い大変だよい」
「あァ……」

女ヶ島の海岸で突っ伏す男共の群れを見たマルコとローがそう言葉を交わして溜息を吐いたのは言うまでもない。
それでも、サッチを中心に涙する白ひげ海賊団の隊員達とシャチを中心に涙するハート海賊団の船員達にインペルダウンの一部の囚人達は、お互いに慰め合うと直ぐに意気投合したので良いとする。
そして、ルフィやジンベエ、ハンコックに女ヶ島の一部の女戦士達を交えた白ひげ海賊団とハート海賊団とインペルダウンの一部の囚人達による盛大な宴が始まった。

「悪いな。おれ達は戦争には参加しなかったんだが」

一応建前としてローは白ひげに言ったが白ひげは楽し気に笑うと「おれの娘の治療をしてくれたんだ。何も遠慮することはねェぜ」と答えた。

「なら、宴に参加させてもらった礼だ」

そう言って酒を一口呷ったローは、白ひげにだけ聞こえるように小声であることを告げた。すると、白ひげは目を丸くしたかと思えば破顔して盛大に声を上げて笑い出した。
それに周囲の者達が「何だ? どうした?」と興味津々に白ひげへと視線を向けると、白ひげはコホンと一つ咳払いをした。

「マルコ!」
「ん?」

離れた所でエースやルフィに絡まれていたマルコは、白ひげの手招きに助かったとばかりに彼らから離れて白ひげの元へと歩み寄った。しかし、目の前に来ると白ひげの顔が何やら不穏な笑みを浮かべていることに気付いて思わず頬を引き攣らせた。
な、何だ……?と、戸惑うマルコは白ひげの隣にいたローに気付いて視線を向けると、片眉と口角を上げてニヤリと悪い笑みを浮かべていることに気付く。

トラファルガー・ロー……お前、まさか!
ハッとした時には遅かった。

「マルコ、プロポーズは無事に成功したらしいなァ!」
「「「え?」」」

白ひげの言葉によって一瞬の時が止まって静寂が落とされた。その中でたった一人だけが酒を盛大に噴き出した人物がいる。ルフィの隣に座るハンコックの少し後ろ隣で静かに酒を嗜んでいた女――そう、ヤヒロだ。

「てめェらァ! マルコとヤヒロが夫婦になりやがった! 盛大に祝いやがれェェッ!」
「「まだなってねェよい!?」」←ヤヒロ思わず釣られる

白ひげの暴走に思わずマルコとヤヒロは声を上げた。しかし、

「おいおい! まだってことはいずれそうなるって認めてんじゃねェか!」
「「ッ〜〜!!」」

誰かが大声でツッコんだ。それにマルコとヤヒロは顔を赤くして反論すらできなかった。

「うおお! マジかマルコ! ついにお前! ヤヒロを落としたってのか!? 凄ェな!」
「サッチ! 違ッ! あ、いや、違わねェわけじゃ……、あァ違う! そうじゃなくてよい!」
「ハハハ! 照れんなよマルコ! やるじゃねェか!」
「イゾウ、違ェんだ。まだそこまで――」
「ヤヒロはおれの大事な酒友達だ! 泣かしやがったら承知しねェからな!」

ラクヨウが力任せにマルコの背中をバシンッと叩いた。そのおかげでイゾウに言い訳しようとした言葉が途切れてしまう。

「あ、泣かねェな。ヤヒロだから」

ラクヨウはそう言うとガッハッハッ!と声を上げて笑った。そして、おうヤヒロ!と酒瓶を持ってヤヒロの元へと向かった。

「何でまた顔を真っ赤にして呆けてやがんだ!? 酒だ! 飲め飲め!!」

ラクヨウはヤヒロに酒を進めるが、ヤヒロは石の様に固まってしまって反応が無かった。そして、この酔いどれ海賊集団は悪乗りを始める。

「記念だ! ほら! キース! キース!」

誰かが言い始めた。
それに便乗するのは酔っ払い共の悪い癖。
キスコールで宴が盛大に沸く。

「「「キース! キース! キース!」」」
「ほらマルコ! ヤヒロにキスしてやれ!」
「ひゅーひゅー!!」

マルコの背中をドンッと押してヤヒロの隣に立たせると更に囃し立てる。

「何かわかんねェけど面白そうだな」
「はァ……、ルフィ……、わらわ達もいずれこのように祝ってもらいたいものじゃ」
「おいルフィ、この肉いらねェならおれが貰うぜ?」
「あ! エース! それはおれんだぞ!!」

白ひげ海賊団とハート海賊団とインペルダウンの一部の囚人達によるキスコール。そこに紛れる肉の争奪戦と夢見る乙女なハンコックの妄想独白劇。
どうにも手が付けられない。最早カオスだ。

顔を赤らめながらマルコが眉間に皺を寄せて睨み付けるも相手は酔っ払いだ。覇気が込められていたってお構いなしだ。そして、ヤヒロはというと相変わらず固まったままだ。――が、僅かにプルプルと震えている。
それに気付いたマルコはふっと息を吐いた。自分が怒るまでもないかと睨むのを止めて、まるで他人事のような表情で手にしていたジョッキに口を付けてゴクリと酒を飲む。もう、どうなっても知らねェからな――と。

「「「キース! キース! キース!」」」
「「「なんならもうここで最後までヤッちまえ!!」」」
「ぶふぉっ!? ゴホッ! ゲホッ!!」

これには流石にマルコも盛大に酒を噴き出した。
とんでもねェことを言ったのはどこの誰だ!?と、咳き込みながらマルコは酔いどれ集団を睨み付けた。その時――

「おい」

ヤヒロの一声にピリッと空気が変わった。

「「「ヒッ!?」」」

軽く悲鳴を漏らした酔いどれ集団に、学習しねェなお前らとマルコは思った。そして――

「いい加減にしやがれってんだァァァッ!! 何で私がてめェらの前でマルコときっきききき!! だァァァ!! ふざけんなァァァァッ!!」

ずんがらがっしゃーん!!!

「「「ぎゃああああっ!!!」」」
「グララララ! 『き』の数が多すぎらァ!!」

楽しい宴は地獄絵図と化した。それに便乗するようにエースVSルフィの肉争奪戦が勃発し、ハンコックはルフィ側に、何故かジンベエは成り行きでエース側に付いて戦っていた。

「大団円の宴会は地獄絵図に変わるかよい。まァ、らしいっちゃ、らしいがよい」

比較的安全な場所に避難していたイゾウ、ビスタ、ジョズらの元にマルコは身を寄せて静かに酒を嗜むのだった。





「やっと見つけた!」
「!」

大海原の中、小型の船が二隻。その内の一隻がもう一つの方へ近付いて行くと、男の船に遠慮無しに堂々と乗り込む人影があった。
黒刀を背負う鷹の目をしたミホークが僅かに目を見張っている。

「ヤヒロ……か?」
「おう」

頂上戦争以来、久しぶりにミホークと再会したヤヒロは、艶やかなまっ黒な髪を肩まで伸ばしていて、街中にいる女らしい衣服を着ていた。嘗ての少年のような姿は微塵も無い大人の女だ。

「驚いたか?」
「あァ……」
「クライガナ島に行ったんだけど出払ってるって言うから、居ても立っても居られなくってさ。周辺にいるだろうと思って探索してたんだけど、こうして見つけることができて良かったよ」

外見こそ変わったが中身は以前のままだ。気さくに笑って話すヤヒロにミホークは少しだけ笑みを浮かべた。
船内へ通すと初めて会った時を懐かしむ様にヤヒロはソファに腰を下ろし、差し出されたコーヒーを至福の表情で飲んだ。

「んー、美味だ」

温かいコーヒーを至極幸せそうな顔で飲んでいるヤヒロの顔をじっと見つめるミホークは、相変わらずだなと言って微笑した。

「一人で来たのか?」
「ハハ、それがそうでもないんだ」

照れ臭そうに笑みを零すヤヒロに片眉を上げたミホークは、白ひげ海賊団の誰かが同行しているのだろうと思って納得したように頷いた。
賞金首リストを前にして話をしたあの時が懐かしいと思い出しながらミホークはシッケアール王国へと舵を向けて船を走らせる。

「ミホーク」
「何だ?」
「これ、本当はもっと早くに渡したかったんだけど、なかなか会えなかったし、頂上戦争の時は渡しそびれちまったから……、今更な感じもするんだけどな」
「これは何だ?」
「ミサンガっていう御守だ。ミホークをイメージして色を選んで編んだんだ。腕か足首に付けるんだけど……受け取って欲しいんだ」

赤と黒と白と紫が織りなすミサンガをミホークへ差し出して見せると、ミホークは片眉と口角を上げた笑みを浮かべた。

「頂こう」
「本当に!?」
「あァ、付けてくれないか?」
「了解!」

ミホークは左腕を差し出してヤヒロに付けてもらった。そして、腕に付けられたミサンガを見つめて目を細めると、ポンッとヤヒロの頭に手を置いてクシャリと一撫でして礼を述べた。

「何か照れる」

ヤヒロは頬を赤らめてニシシと笑うと空を仰ぎ見て「今日も空は青い!」と声に出して風を気持ち良さそうに全身で浮ける。
そんなヤヒロを見つめるミホークは、相変わらず子供染みたところはあるが、それでも女らしくはなったな。と、フッと小さく笑った。
そして――
クライガナ島に着いてシッケアール王国跡地近辺に来た時、ゾロが誰かと戦っている姿を目にしたミホークは目を丸くした。

「不死鳥か」
「よう鷹の目! 無事に会えたみてェだない!」
「はァはァ……、くそっ! もう一勝負!!」
「あァ、いいよい」

まさか同行者としてマルコがここにいるとは思っていなかったミホークは視線をヤヒロへと移した。ヤヒロは楽し気に笑って「頑張れゾロ―!」と声援を送っている。

「武装色の覇気がまだまだなってねェよい」
「あァ!? どうすりゃ良いかちゃんと教えろ!」
「教えるより慣れろ、だよい」
「と言うか、飛ぶな!」
「おれは不死鳥だからなァ」

ゾロの修行に付き合うマルコは実に楽しそうでクツクツと笑った。
そんな彼らを見つめながらヤヒロは言う。

「今はマルコと二人で旅してんだ」
「白ひげがよく許可を出したな」
「オヤジはあっさり許可を出してくれたよ。どっちかって言うとマルコを連れ出す方が大変だった」

ケラケラとヤヒロは笑った。
確かにな。不死鳥が白ひげから離れて旅に出るなど誰も思わん。
ミホークは青い炎を纏ってゾロの相手をするマルコを見つめてそう思った。

白ひげ海賊団の船長エドワード・ニューゲートをオヤジと呼んで敬愛し、海賊団のNo.2で取り纏め役でもあるマルコが船から離れるなど、偵察以外ではあり得ないことだ。
しかし、マルコはヤヒロと共に二人だけで旅をしているという。

「何かあるな」

何も無くて単独行動はあり得ないだろうと呟いたミホークに「あー……」と声を漏らしたヤヒロは、頬をポリポリと掻いて気恥ずかしそうな笑みを零した。

「まァ、その、何だ……。し、新婚……、旅行……」

新婚旅行。そうか、新婚旅行……何?
ヤヒロの口から発された言葉にミホークが、あのミホークが、あからさまに二度見した。

あの、お前が?――と、思わず失言を口にしそうになってゴクリと飲み込んだ。そういうことを口にする性分では無いが思わず言いそうになった。自分のキャラを必死に守ったミホークを誰か褒めてやって欲しい。

「ありがとうな」
「……何がだ?」

ヤヒロは覚えてるか?と口にしてから言葉を続けた。

「ミホークは『この世界で生きているのなら悔い無く生きたいのだろう?』って言ってくれたこと。『ならば思い切り生きてみせれば良い。やりたいことをやれば良い』って」
「……」
「ミホークがそう言ってくれたから、この世界で生きようって強く思えたんだ。思いっ切り生きて生きて生き抜いてやる!って。今でも初めて会ったのがミホークで良かったって思うんだ。感謝してんだぞ? ミホークは私にとって大恩人で、凄く……大切な人だ」

笑いながら気持ちを伝えたヤヒロは、最後はどこか泣きそうな表情へと変えた。
ミホークは黙ってその言葉を耳にしながらヤヒロの目を真っ直ぐ見つめている。

僅かに瞳が揺れている。
涙が浮かび上がっているのだろう。

ミホークは徐に手を伸ばしてヤヒロの頬に手を添えて親指で目元を拭った。その途端にヤヒロは顔を真っ赤にして口をパクパクと開閉を繰り返した。しかし、逃げる気が無くて、甘んじてそれを受け入れる自分がいる。

「あァ、あまりお前に構うと不死鳥が怒るな」
「! そ、そそ、そうでもねェ……よ……」

ミホークの言葉にヤヒロはゾロの相手をするマルコへと顔を向けた。
ゾロの太刀筋は中々のものだ。結構やるよいと言いながらマルコは余裕を持って笑う。その半面ゾロは悔しそうな表情を浮かべていた。それでもやはり張り合いがあるのか、時折笑みを零すこともあった。

「信頼があるのだな」
「まァ、心を許してるのはマルコと……ミホークぐらいだから」

そこまで口にしてヤヒロはハッとしてミホークに向けて首を振った。

「あ、いや、変な意味じゃ無くてだな!」
「おれがずっと側にいたら、お前はおれの女になっていたかもしれんな」
「へ!?」
「可能性はあったのだろう?」

微笑を浮かべてミホークはヤヒロを見つめた。ヤヒロは茹蛸のように顔を真っ赤にして目を白黒させて口をパクパクさせた。ただ、二人のそんな会話はゾロを相手にしているマルコの耳にもしっかり届いていて、ゾロの剣を往なした後にマルコは地面を蹴ってミホークの元へと飛んだ。

「可能性はあっただろうが、おれの女に今更色目を使って軟派してんじゃねェよい」
「ふっ、なら誰にも取られんようにしっかり守ることだな不死鳥」
「ったく……、てめェに言われなくても守るに決まってんだろい」

マルコはヤヒロの腕を掴むと自分の方へと引っ張って肩を抱いた。目を丸くして顔を真っ赤にしていたヤヒロは、マルコを見上げるとフハッ!と吹き出して笑い出した。

「モテるって辛い!」
「どの口が言ってんだよい」
「この口だ!」
「おれの口じゃねェよい」

マルコの口元を指してケラケラと笑ったヤヒロは、「久しぶりだなゾロ―!!」と声を上げてゾロの元へ走って行った。
あァ?誰だお前?と訝し気な顔を浮かべたゾロだったが、ヤヒロだとわかると目をひん剥いて「ヤヒロ!?」と素っ頓狂な声を上げて驚いていた。

「不死鳥」
「何だよい?」
「ヤヒロは任せた」
「世界一の大剣豪様にまさかそんな風に頼まれるとは思ってもみなかったよい」
「あれは意外に脆いところもあるんでな」
「知ってるよい」
「なら良い。用が済んだならいつまでもこのような所に留まる理由はなかろう」

ミホークはそう言って館に戻ろうとマルコに背を向けて歩き出した。

「……ありがとよい、鷹の目」
「ふっ、礼を言われる筋合いは無い」
「おれが言いてェんだ。気にするない」

ミホークはクツリと笑みを浮かべると館へと姿を消した。
暫くしてゾロと談笑していたヤヒロはマルコの元へ戻り、修行で疲れたゾロは館へと入って行った。

「もう良いかい?」
「あァ、ありがとうマルコ! 話もできたし渡すものも渡せた。伝えることもできた。悔いは無いよ」

マルコはヤヒロの頭を一撫ですると海辺に向かい、小型の船に飛び乗ってその島を後にした。
その後――
二人は何を思ったのか海軍本部本拠地に立ち寄って、サカズキを見つけるなり悪戯をして逃走するという何とも子供染みたことをするのだった。

「はははは! やっべェ! マジで面白過ぎる!!」
「ハハッ! 本当にあの顔はヤバかったよい!!」

酒場で買った酒を片手に二人は船でお腹を抱えて笑いながら酒を酌み交わした。最近ではヤヒロの悪巧みにマルコも便乗するようになり、絶妙に息の合った二人は何をするにしても素晴らしい程のコンビネーションを発揮する実に良いコンビだった。

「くっ……、おのれェ不死鳥に鬼神! どこまでワシを愚弄したら気が済むんじゃい!!」
「ん〜、たぶん、サカズキのその性格が二人の悪戯心に火を着けるんだと思うよぅ?」

怒れるサカズキの横で暢気にアイスを頬張りながら書類処理をするボルサリーノがいて、それを傍からぼ〜っと見つめるクザンは溜息を吐いた。
不死鳥と鬼神のコンビはエグかった。まさかサカズキを遊びの道具にするなんて思ってもみなかった。

果たしてこの世界は大丈夫なんだろうか…?
クザンは一人で言い知れぬ不安を抱えたことは言うまでもない。





とある島のとある場所に白ひげ海賊団が集まっていた。そこに少し遅れて現れたのはヤヒロとマルコだ。

「ただいま!!」
「おー! ヤヒロちゃん! マルコ! 待ってたぜ!!」
「グララララッ! どうだヤヒロ! 楽しめたか?」
「「サカズキを苛めてきたよい!」」←もう意気投合
「「「いや、それ、もう笑えない」」」

二人のコンビネーションは恐ろしいものがある。
白ひげ海賊団では超有名だ。

喧嘩する程仲が良いと誰が言った?
その言葉はこの二人にピッタリだ!!

誰しもが思うことだった。

殴り合いの喧嘩をしても夜には二人して仲良く酒を飲み、翌朝には二人して不機嫌に書類処理の仕事をして、徹夜したら未提出者の隊長を追いかけ回して説教。
サッチの女癖の悪さに反省を促す為に二人して罠にハメてサッチの悲痛な叫びが木霊して、それを肴に楽し気に酒を飲んでいたのはつい最近の話。
二人して悪い笑みを浮かべた瞬間、あのイゾウでさえも青い顔をして逃げる始末だ。そんな二人を唯一御することができるのが、白ひげ海賊団の船長であるオヤジだ。

「マグマ小僧も災難だなァ」

オヤジが楽し気に笑うその横にいたサッチとエースは頬を引き攣らせてサカズキに同情した。
ヤヒロとマルコは世界最強で最恐コンビだからなァとサッチは遠い目をして、おかげで書類処理を完璧に熟せるようになっちまったしな。あんだけ嫌いだったのにとエースは心の中でホロリと涙を零した。

((マジでこの夫婦は敵に回したくねェ))

サッチとエースは心の底から同調して溜息を吐いた。





白ひげ海賊団が一同に集まったこの岬で盛大な宴が催された。
海の見えるこの場所には一本の木が植えられ、その木の麓にはヤヒロが着ていた特攻服が埋められていた。

「盛大に楽しく笑おうぜ!!」
「「「おおおお!!!」」」

ヤヒロの掛け声が乾杯の音頭となり大きな笑い声と共に酒を一斉に呷る男達。
白ひげもこの時ばかりは(マルコを含む)船医やナースの許可を得て、心の底から酒を楽しんだ。

「サッチ!」 
「あいよ!」
「エース!」
「おう!」
「マルコ!」
「あァ、直ぐに行くよい」

サッチとエースとマルコと共にヤヒロは本来ならそこにあったであろう場所に立つ。
植えられた木は大きく育ち、葉を揺らして四人を歓迎するようにサワサワと音を成している。そこから望む海は月明りに照らされて、海面に映る光は神秘的でとても美しく、空には満点の星々がキラキラと輝いていた。

「乾杯」

四人は手にした酒瓶をお互いにぶつけて酒を呷った。そして、楽し気に笑い合った。その四人の元に白ひげも加わり酒を酌み交わしてまた笑う。少しずつ人が集まって最後には皆で笑った。

エドワード・ニューゲート、ポートガス・D・エースの墓が建てられるはずだったその場所で、一人で佇んで悲しみに暮れるマルコが立っていたその場所で、今宵は白ひげ海賊団の全員が生きて笑い、望むべき未来を迎えたのだ。

「マルコ、未来を変えることができて良かったな」
「あァ、ありがとよい……ヤヒロ」

お開きになった後、二人はもう一度その場所に訪れて手を繋いで笑った。
未来のマルコがヤヒロに口付けしたように、マルコはヤヒロの腕を引いて口付けを交わした。

「思えばあれがファーストキスだったんだよな」
「自分とは言え納得できねェよい……」
「変わんねェよ。マルコはマルコだ。同じだよ」
「そうかい」

感触は変わらないとヤヒロは笑った。

「「なら問題無いよい」」
「ニシシ」
「真似すんなよい」

ヤヒロの頭に軽くコツンッと拳を当ててマルコはフッと笑った。

「なァに二人だけでイチャついてんだ! おれも混ぜろ!」
「そうだぞ、おれも混ぜろ!」

ヤヒロとマルコの元にサッチとエースが加わり、四人は肩を組んで心の底から声を上げて笑ったのだった。

真嶋 八尋(マジマ ヤヒロ) / 26歳(現在)
夜叉鬼神七代目総長 赤龍と青不死鳥を背負う音速の鬼神
彼女の持つ気質はまさに覇王を越えし『皇帝』そのもの。

後にティーチ率いる黒ひげ海賊団は、赤龍の矛と青不死鳥の盾、そして鷹の刃を得た『皇帝』が率いる白ひげ海賊団の手によって壊滅の道を辿る。
また、天竜人にも制裁が下され世界は混沌とするのだが、それもあっさりと片付けられると世界情勢は大きく変わっていった。

「グララララッ! 相変わらずかヤヒロ!!」
「くっ……、五月蠅いよオヤジ」
「ヤヒロにも苦手なものがあって安心したよい」
「むぅ……、釣りは性分に合わないだけだ。これの何が楽しいんだ……」
「あ、オヤジ! 引いてるよい!」
「あァ、十匹目だなァ」
「くそ! どうして隣にいるオヤジにばっかりヒットすんだよ!?」
「あ、おれも来たよい! これで十三匹目だよい!」
「だから何故反対隣にいるマルコにヒットすんだよ!?」
「おーい! ヤヒロ! 泣いてるぞー!」
「げっ!? おいおい……、マジで勘弁してくれって……、漏らしちまいやがった」
「エース代わって! あー……漏らしちゃったか、サッチちょっと」
「あ!? ちょっ、マジ!? ヤヒロちゃん! おれのスカーフで拭いちゃう!?」
「あー、ごめんごめん! 後でちゃんと洗濯して返すからさ!」
「いや、せめて新しいの買ってくれる? それあげるから……」

涙ぐむサッチをゲラゲラと笑う隊長達と隊員達。
至って平和な日常を送り、小さな家族を新たに加えた白ひげ海賊団のモビー・ディック号は、今日も大海原を悠々と走るのだった。

約束の地

THE END.
あとがき

此処までお付き合いくださりありがとうございました。
2015.10.13...
2022.09.06<改訂>

〆栞
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