晴れの日とはいえ今日はいつもより肌寒かった。制服の中にカーディガン着てないと寒くて寒くてとてもじゃないが授業なんて集中できねぇ…っていってもクソつまんねぇ授業なんて端から真面目に聞く気はないけど。

まぁ放課後になってしまえばうぜえ担任の話も聞かなくて済むし、今日は部活もねぇから早く帰れるじゃんラッキー、とか思って今頃は悠々と一人で秋晴れの下を自転車で走っているはず…だったんだけど何でだ

「ほらさっさと漕げ」
「う、うるせ…えよ、だまって、乗ってろっ…!」

学校から帰る途中にあるすっげえ急な坂。まだ一人なら自転車に乗ったままでも軽々登りきれるが、今は俺の後ろにいるこのバカのせいでそうもいかない。つかなに涼しい顔でアイス食ってんだ、俺にも一口よこせ。

「てかお前チャリ壊れたんだったら、バスで帰れよっ…」
「バスは混むから乗りたくない。それに体力バカなお前にとって私一人くらい乗っても変わらないだろ」

いやいや変わるから。お前俺が今どんだけ汗かいてると思ってんだ。
ほら頑張れ頑張れ、と後ろから感情のこもってないエールを贈ってくる風介。お前のために必死でチャリ漕いでる俺よりもアイスに夢中になりやがって。

「やべぇ、キツい…俺死ぬ…まじで」

頂上まであとちょっと。だけどこのもう一踏ん張りがキツいのなんのって。
ぜぇぜぇと息を乱す俺の耳元に生暖かい何かが当たった

「晴矢頑張って。大好き」
「なっ………!?」

それが風介の唇だって分かるまで時間はかからなかったが、そのせいでチャリは蛇行して、危うくガードレールに突っ込みそうになった。

「バカ…!おま、何を…!」
「馬鹿なのは貴様だ。四の五の言ってないでさっさと走れ」
バシバシと背中を叩かれて「ぐおっ」と間抜けな声を出してしまったがそれどころじゃねぇ。
再び振り返って反論を試みようとしたが、アイスを食べ終えた風介が俺の腰に両腕を回してきたのでそれは叶わなかった。
無言のまま俺の背中に顔をうずめる風介。回された腕の力が強くなって、不覚にも風介が愛おしい、可愛いと思ってしまった。

(俺って、コイツに甘いよなぁ…)

よし、決めた。コイツを家まで送ったら絶対チューさせてもらう。ほっぺじゃなくて唇に。だってこんなに頑張ったんだからちょっとくらいご褒美があってもいいだろ?
そうと決まったらあとは全力でチャリを漕ぐだけ。急にスピード上げたら風介に怒られたけど、そんなの知ったこっちゃない。

「い、いきなり飛ばすな馬鹿っ!」
「うるせぇしっかり掴まってろっ」

この坂を下りれば、風介の家まであとちょっと。






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テーマ「人外ファンタジー」
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