噛みつかれた首筋が痛い。
鋭い歯が肌に食い込む感覚がモロに伝わってきて、思わず顔をしかめた。噛まれた箇所に手をやれば、ヌルりと伝わる血の感覚。相当深く噛みつかれたらしい。
おそるおそる相手の方に目を向けると、唇に付着した血を長い舌でゆっくり舐めとって、静かに私を見つめていた。
でもその瞳は決して穏やかなものじゃなくて、獲物を目の前にした、まさに獣の目だった。
「なんの、真似だバーン…」
痛みのせいか恐怖のせいか、かろうじて口から出た声は震えていて小さかったけれど、負けじと唇を噛みしめて、目の前の獣を睨みつける。
「マーキング」
ニヤリと口端をつり上げると、今度は噛みついたそこに、チュッと触れるだけのキス。
「お前は俺のものだろ」
よそ見してんじゃねぇよ、と呟いて部屋を出て行く赤い髪をぼんやりと眺めた。
「よそ見、なんて…っ」
あいつの目に、あの鋭い金の瞳に捉えられたら、よそ見なんてできるはずもないのに。
あぁ本当にバカな奴。
こんな痕、いくら身体に刻んでも、私にはお前だけだというのに。