※幼少期
もう寝ちゃった?と聞けば、マークはタオルケットから顔だけを出して、ふるふると首を横に振った。
外は相変わらず大雨で、昼間よりもさらに激しくなっていた。雨というよりは、滝と言った方がしっくりくるかもしれない。そんな天気だった。
「まだ眠くないの?」
「うん…何て言うか…」
知ってる。
マークは眠くないんじゃなくて、眠れないのだ。
東側の窓が、すさまじい音と共に白くぴかりと光った。
「ひぅっ!?」
ごろごろと不気味な音を遮るように、マークは耳を塞ぎながらタオルケットを頭からすっぽりと被った。
「フィディオ…」
がたがた体を震わせながら俺にしがみつくマーク。
その背中に腕を回して、ぽんぽんと優しく撫でてやる。それでもマークの震えは止まらなかった。
「フィディオ、雷が…」
「大丈夫だよ」
前髪をかきわけて、おでこにチュッとキスを落とす。
わざと高い音を立てたせいか、雨音を遮ってそれはやけに部屋中に響いた。
「だから安心して眠って大丈夫だよ」
そしてまた二回目のおでこへのキスをした。
不安そうに眉毛をハの字に曲げていたマークも、安堵したのかニコッと笑いながらそのまま目を閉じた。
「おやすみ、マーク」
明日はきっと晴れるよ。
そしたらいつもみたいに、二人でサッカーしよう。
今度は薄く開かれた唇にキスをして、マークを抱きしめたまま眠りについた。