※世界大会が始まるちょっと前くらい



せっかく家に遊びに来ているというのに、マークといえばいつにも増して上の空だった。
例えば「このケーキ美味しいね」と言えば「あぁ」と流されたり、「明日の練習は監督来ないんだよね?」と尋ねれば「そうだな」で会話が終わってしまったり。
今のマークが何を考えているかなんてさっぱりだけれど、テーブルの上のケーキとコーヒーよりも、普段練習を共にしているチームメイトよりも、よっぽど大事なことらしい。

さっきからソファーの後ろにある、大きな窓を振り返っては凝視している。
そんなことでは淹れたてのコーヒーも、すっかり冷めてしまうではないか。せっかくマークの好きな銘柄のやつを買ってきたのに。

「…あのさぁ、マーク」

ちょっと大きな声で呼べば、さすがのマークも窓から目を離してやっとこっちを向いてくれた。
ぱっちりと開かれた大きなエメラルドグリーンの瞳は、驚愕の色も含んで、少し揺れている。

「今日はいつになく素っ気ないけど何かあったの?」
「…いや、別に…」
「ミーにも言えないこと?」

ゆらり、とまたエメラルドグリーンが揺れる。

そのまま目を伏せたマークは小さな声で「ごめん、」と言って服の裾をぎゅっと握った。

(ちょっと、きつかったかな…)

膝を抱えたままソファーの上で丸くなるマーク見て、言い過ぎたと思った。
お互い口も開かずに、静寂だけが流れる。

どう言葉を切り出そうか、考えを巡らせている時だった。

「こんにちは―。お届け物です―」

とつぜん鳴り響いたインターホンと郵便屋の声で、マークの表情が一変した。
さっきとは見間違えるほどの、まるで小さな子どもが宝物を見つけた時みたいに、きらきらと輝いたままの顔で玄関まで走って行った。

「イタリアから…フィディオから、手紙が届いたんだ!」

慣れた手つきで封を開けて、中のメッセージを読み始めた。
目で文章を追っては一人で笑ったり、ぶつぶつと独り言を漏らし、たまには歓声をあげたり。

(すっかり自分だけの世界だね…)

いや、というよりはマークと手紙の送り主の世界と言った方がいいかもしれない。

「聞いてくれ、ディラン!」
「な、なんだい…?」
「フィディオも予選を突破したらしい!世界大会で…ライオコット島でフィディオに会えるんだ!まぁ奴なら絶対大丈夫だと思ってたけどな。なんて言ったってフィディオはイタリアの…」
「そう…」

それは良かったね…と言えば、嬉々として『フィディオ』の話を続けるマーク。

(うん、マークが元気になって、ミー本当に安心したし嬉しいよ……でも)

そのフィディオって、誰だい…?




















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