思えばフィディオよりも先に朝起きたことなんて、今まで数えるほどしかなかった。
いつもフィディオは俺よりも早く起きてシャワーを済ませ、温かい朝食と美味しい珈琲を淹れて待ってくれている。
それよりも目を覚ました瞬間の、フィディオからの「おはようのキス」が心地よくて好きだった。唇を離せば必ず、「ご飯の前にお風呂入っておいでよ」と言って頭を撫でられる。いつもそれに甘えていた。
そのフィディオは、今は俺の隣で眠っている。
昨日の夜、俺を抱いていた時の余裕の無い表情も好きだけれど、寝ている時の幼い子どもみたいなあどけない表情も可愛くて好きだ。

規則正しい寝息を立てるフィディオを起こさないようにそっとベッドを抜け出す。
シャワーを浴びに行こうと、しわしわになったシャツを羽織って姿見の前に立った時だった。

(こんなにたくさん…)

首から胸元にかけて散りばめられた無数の赤。
マークは肌が白いから目立っちゃうねと言いながらも、何度も首筋に顔を埋めてきたフィディオを思い出す。
薔薇の花びらみたいで綺麗だ、なんてことも言われた気もしたが、こっちは受け入れるのに必死でそのへんの記憶はあまりない。

「消えなきゃいいのにね」
「俺は早く消えてほしい」
「ひどいなぁ。マークが俺のだっていう印なのに」

初めて痕をつけられた日、フィディオはそう言ってからから笑っていた。
たしかあの時も、俺はシャツだけ羽織った格好で、姿見の前でつけられたキスマークを何度も見返していた気がする。
お返しと言わんばかりに、フィディオに飛びついて、首に噛みつこうともした。でもけっきょく失敗に終わって、シーツにくるまってふてくされている俺を見て、フィディオは死ぬほど笑っていた。

昔から馬鹿なことばかりしてるんだな俺たちは、と思うと、笑いがこみ上げてきて仕方がない。
後ろですやすやと眠るフィディオを見て、今ならあの時の雪辱を果たせると思ったが、なんとなく止めた。
今は早く、このべたべたな体を洗い流したい。
その後はご飯を作って、珈琲を淹れて。そして、フィディオに「おはようのキス」をしてやろうと、胸を踊らせて部屋を出た。









「君と僕」様へ提出。









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