「これはフォートナム&メイソンといって、なかなかの…」
「へぇ、そうなのか」
それはすごいな―、と此方の説明はそっちのけでスコーンやらケーキを頬張るこの男の嬉しそうな顔といったら。
これが果たして本当に、アメリカ代表のキャプテンまで務めた男なのか疑うほどだった。
せっかくこうして英国ならではの持て成しをしているというのに、彼、マーク・クルーガーにとってはどんなに高価な紅茶よりも、ロイヤル・コペンハーゲンのティーカップよりも、目の前に広がるスイーツやサンドイッチの方が何倍も魅力的らしい。
その証拠に、
「このスコーンはお前の家で作ったやつなのか?」
「あ、あぁ。私の母が焼いたものだ…そんなに美味しいか?」
「あぁ。とっても」
これならいくらでも食べれると言って、次々とスコーンにジャムを塗っては口に運んでいった。
色気より食い気…とはまさにこのことなのだろうか。
せっかくあれこれ趣向を凝らして、彼の為にわざわざ他国から取り寄せた食器も殆ど意味を成さなかったようだ。
(だがそれでも…)
こんなに素直に喜んでもらえるのはやはり嬉しいわけで。
「エドガー、なに笑ってるんだ?」
「何でもない」
口の周りにジャムを付けながら食べる彼が愛らしいと思いながら、それを指で拭った。