(もくもくもくもくと…リスみてぇ)

生クリームやら苺がふんだんに施されたショートケーキを頬張る風介の顔といったらこのうえなく上機嫌で、その様子をまじまじと見てたら「一口いるか?」なんて聞かれたから遠慮しとく…って断った。

見るからに絶対甘いだろ、っていうゴテゴテしたケーキを風介はかれこれ8個は食ってる。
なのにペースは落ちるどころか、あれもこれもと次々に注文して、遂に今、9皿目に突入したところだった。

「………美味いか?」
「ん、美味しい」
「………そうか…」

それは良かったな…と俺は目の前の洋菓子を貪る風介から目を逸らした。
視線を向けた先に、『本日お客様感謝デー!お好きなケーキ90分食べ放題!!』の広告が見える。
ケータイで時間を確認すると、ただ今13時40分。ちょうど食い始めて1時間が経つ頃だが、コイツのことだから時間ギリギリまで店に居座るはずだ。絶対に。

「まだ、食うのか?」
「もちろん。晴矢はもういいのか?チーズケーキしか食べてないじゃないか」
「そんな甘いもん、お前みたいに何個も食えねぇよ」
「…そうか?」

こんなに美味しいのに、とティラミスをつつく風介。

ったく 、嬉しそうな顔しやがって。家で飯食ってる時とはえらい違いだ。

「…俺が作ったのもそれくらい嬉しそうに食えよな」

フォークを動かしていた風介の手がピタリと止まる。
独り言のつもりだったが、向かいの席にいる相手の耳にはしっかり聞こえていたらしい。

「食べてるじゃないか、ちゃんと」
「嘘つけ。いっつも眉間にシワ寄せながら食ってるじゃねぇか」
「それは晴矢が何にでもピーマンを入れるからだよ。昨日だってパスタに入ってたし」
「だってそうでもしねぇとお前、ピーマン食わねぇじゃん」
「そんなの食べなくたって生きていけるよ」

風介はそう言うと、食べかけのティラミスをフォークに刺して一気に口に放り込んだ。
そして直ぐに、近くにいた店員を呼びつけて「ミルフィーユを一つ」と注文した。

(ちっ…人の気も知らないで…)

澄ました顔で紅茶を飲む風介をよそに、俺は心の中で舌打ちをしながら窓の外を眺めた。

「ケーキに嫉妬した?」
「あ?」

クスクスと笑いながらティーカップから口を離す風介。
男にしてはやけに長い睫毛に縁取られた瞳にジッと捉えられて、思わず返す言葉を失った。

「私は晴矢の作る料理、好きだよ」
「…ケーキ、よりもか?」
「うん。嫌いなものが入ってなければね」
「…言うと思った」

だったら今日の晩飯は、お前の苦手なものがたっぷり入った野菜炒めにしてやるよ、と言えば風介は「絶対に食べない」と顔をしかめた。

















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テーマ「人外ファンタジー」
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