[※現パロ/not幸せ]

告げたらこの少年は、どんな反応をしてくれるのかと。
感情欠落気味の彼への単純な興味でそう思う反面、言葉で表すのならば恋情で間違いはないであろうお互いの想いから生じる後ろ暗さで中々切り出すことの出来ない儘。
何も知らない彼とただ只管に肌を重ね合わせて、幾度も気持ちを吐き出しあって、そうしてその都度、罪悪感ともいうべき感情に潰されそうになった。
然し。彼は果たして、哀しんでくれるだろうか。そうですかと、いつものように笑うだけでは、ないだろうか。
髪を振り乱して喚くような人間でもなければ、涙を流して縋るような人間でもない。
きっとゆっくり口角をあげて、目を細めて、陰の差す顔で、笑う。
私の知る彼はそういう、人間なのだ。

「結婚、するんだよ」

「――そうですか」

笑った。予想と寸分違わぬ笑顔で、寸分違わぬ言葉で、返してきた。
何も探ってこないのは私の言い訳を待っているからか、それとも何も感じなかったからか。
どちらにせよ私は、告げてしまった以上。二度とこの細い肩に触れられない。烏の濡れ羽のような髪に触れられない。二度と彼に、鶴町伏木蔵に、恋情を抱くことは、赦されない。
何がいけなかったのか、――何がこんなにも、苦しいのか。わかっているけれど、認めたくはない。
認めてしまえば私は彼の元を去りきれず、かと言って戻ることも出来ずに宙に浮くことになるだろう。
それは誰にも得にならないどころか寧ろ、不利益しか生じない。

「随分と、急な話で」

「社長直々の御命令でね、…あの方には、恩義ばかりだから」

「ふふ、貴方は義理堅いですからね」

真っ黒な瞳は微動さえせずに一点を見据えた儘。口はいつものように薄く笑った儘。けれども陰の差す横顔はどこか、寂寞しているようにも見えた。
そうであって欲しいと、随分身勝手な感情が影響してしまった故に我儘な希望で色付けられた可能性も大いに有るが。
こちらを見もしないのは多少なりとも寂寞やら口惜しさやら、そんなものを感じているからではないのかと、――期待したくなるのは、こうなっても尚。
認めてはならない、認めたくはない私の苦悶の根底に在るものが息衝くのを、止めないためか。

「遂に、さよならですか……ふふ、覚悟は、していましたけれど」

「……すまない」

「謝らないでください、とても……とても、惨めになります」

僕が女の子だったらだなんて、幾ら考えたところでどうしようもないことに焦躁してしまうでしょうと、彼は嗤った。苛立ったとて焦ったとて、無いものが生じるわけでも在るものが失するわけでもないのにと。
彼が嗤うから。
言葉と重ならない表情で声音で、嗤うから、私は。
思わず抱き寄せそうになった腕を、必死に押さえ込んで。
何を憾むともつかずただ、澱みに埋もれた恋情を、最期になるであろうと引き上げた。
ああ、間違いなく。
今までも、そして恐らくこれからも、私は彼を。――そうだというのに、それだけでは結局何一つ儘ならぬ。

「雑渡さん、僕は」

「うん」

「貴方に恋をしていました」

「うん」

「貴方を、愛していました」

「……うん」

「――どうか、お幸せに。」

精一杯絞り出した声は震えて、一言にもならなかった。
彼ももうそれ以上は言葉を紡がず、もう笑いもせず、脱ぎ捨てて皺の寄った制服に腕を通して。
静かに、部屋から姿を消した。
――此処はこんなにも、広い部屋だっただろうか。こんなにも、殺風景な部屋だっただろうか。

「……中々どうして、……いや、必然といえば必然なのかな……忌ま忌ましいことだ」

一緒にはなれないという事実はあまりにも大きくて。総てを、これまで積んできた総てを一気に瓦解させる程。
何が起きようとも何を言われようとも、私と彼の間には、

(同じ感情が、在ったはずなのに)


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愛はあったはずなのに
Twitter診断お題から。
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