顔を変えていくら平静を粧ったとて、痛いものは痛い。
そして痛いということは酷く不愉快で、不愉快は何よりも深く心を穿ち私を、殺す。
故に痛みを与え不愉快を生み心に風穴を開け絶命へと至らしめるものがあればそれは私からすれば何であろうと忌忌しいことこの上なく、とても、有害なのである。
有害なものは排除しなくてはならない。
いつか害を及ぼすかもしれない、そんな長い目で見ている余裕などない。
だから確実に痛みを与えたわけではなくとも兆しが見えたその瞬間それは紛れもなく有害で、取り除くべき対象となる。

そう、故に私は。

「本来ならばこの身体で脈打つ命を、何よりも先に潰えさせなければならなかったわけだが」

如何せん人間とは愛やら自己犠牲やらそんなものをあたかも真理のように宣ったところで結局は、自分という存在が一番かわいいもので。
他は駄目だけれども、自分であれば致し方ないと、許容する。
私も人間であるから当然、その自己愛という本能的な特徴から外れるはずもなく。
私は私が一番かわいい、他の誰よりも、何よりも。
こうして私が未だ呼吸をやめずにいるのはそういうためで、私は自らの心臓までもを殺めることはもうずっと出来ず仕舞いというわけだ。
かと言って私を芯から殺せる、この世から存在を奪うことの出来る相手にはまだ、会えていない。
昔同じ地で共に六年を過ごした彼らならば或いはとは思うが巣立った今ではそう上手く会えるものでもなく、よしんば会えたとしても彼らは恐らく、私の望むように私を絶ってはくれないだろう。

私は、いなくなる機会に恵まれない。

故に私の身体は健常で、けれども私の心の方は、

「断続的に痛み続けて、痛んで、傷んで、それでもまだ」



(腐り果てるまいと、息を)

――そして深層で我儘を叫ぶ、死にたくないけれど、存在し続けたくはないのだと。


fin.
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