生暖かい、どろりとした液体が辺りに爆ぜた。

飛沫がどの程度の範囲まで及んだのかは定かではないが、派手に散ったことで身体に浴びたそれは他人のものというだけで酷く不快感を煽る。
ああ、気分が悪い。
呟くと同時に全身の毛が逆立つぞわりとした奇妙な感覚に襲われ、途端にここに立つ己の存在の許諾に疑問が生じて息が詰まる。
そうしてひゅう、と悲鳴を上げた咽は水分を欠乏させた独特の痛みを訴え、――早く、そう叫んだ。
やるべきことは終えた、だから早く、帰らなくては。
しかし脚は鉛のように重くなり動こうとしない。
遂行までは事もなげを演じて心を揺らさずにいられたけれど、今は遂行完了を示す事物が皮肉にもそれを拒む。
じっとりと汗ばんだ手を強く握り込むと、鈍い痛みが生まれた。
恐怖しているのだ、己の犯した行為に。
これはこなすべき仕事であり、私にとっては当たり前の、存在理由である。
そう、今までも叩き込まれてきた。
けれども大陸で、百見は一行に如かずといわれるだけあって。
座学の間に感じていた時と、直接実践した後では何もかもが違う。
昔は、怖いと思いつつもどこか他人事で、語尾に必ず推量がついていた。
今はただ、ただひたすらに、怖い。
何がどうと具体的に述べられはしないが、というよりもそんなことを述べる余裕などないのだが、とにかくただ、恐ろしくて仕方がない。
本当に一流になるのならば、こんなことを思いいつまでも現場に残るなど以っての外だろう。
要は私はまだまだ未熟の、甘ったれでしかないのだ。

「……情けないなあ、頭じゃ、わかっているのに」

身体は、正直だ。
心も、知識には従おうとしない。
これから先嫌でも数をこなすことになるというのに、何ということだ。
始まりが肝心などと言うけれど、初めてを抱えきれない場合はお先真っ暗ということだろうか。

「…もし、このまま死ねれば」

なんて。
出来もしないくせに、私はこうして弱音ばかり。
私がもっと強い心であったなら、先の不安も今の恐怖さえも飲み込んで、次へ踏み出せたのだろうけど。

ああ、何だか無性に、共に学んだ彼らに会いたい。
会って、大丈夫だよと笑ってほしい。





(独りはさみしい、私は独りではここから、動くことすらも)





――底知れぬ恐怖から、言い知れぬ悍ましさから、懐かしき日々へと愛しさを。


fin.
乱ちゃん初暗殺任務。
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