奥の方に貯蔵され、あまり読まれることのない本たちは、当然埃がたまっている物で。外に運び出された本たちから埃を払いながら、ケホッとひとつ咳をした。
私はこの熱月祭の虫干しが嫌いではない。というよりも、好きに近い。普段はあまりかかわりのない本でも、この時ばかりは違う。すう、と息を吸い込めば、埃と一緒に歴史の臭いがするような気がした。
「それでも、この量の虫干しは大変ねぇ」
貴重な本も数多い。それらすべてを外に出すのだ。警備に手は抜けず、かといって虫干し人員が少ないのは困る。なかなかに、難しいミッションだ。
「街はお祭り騒ぎ。私たちは残業かしら?」
本たちを朝露に濡らすわけにはいかないから、その日出した分の本は、その日のうちにまた中へ戻さなければならないだろう。本当に、大変な仕事だ。だが、だからこそやりがいというものがある。
(私の考え方も随分変わったわね……)
ふふ、本を手に、一人笑いを零していると、一人の女性が目に入った。一人で黙々と作業を進めているのは確か。
「ノエルさん」
「は、はい! あ、えと……研究班の」
「リンフォよ。それ、一人で大丈夫かしら?」
業務班の一員であるノエルさん。彼女の傍らには持ってきたままに山積みの大量の本があった。
「ど、どうでしょう……」
「他の人たちは?」
「えと、今は分担してやってるので……別のところに」
「あら。じゃあ、私に手伝わせてくれない? 次はどこをやろうか、迷っていたところだったの」
にっこり笑って、返事を聞く前に本に手を伸ばす。
「え、あ、いいんです、か?」
「ええ、もちろん」
「すすすすみませんっ」
「こういう時は、別の言葉の方が嬉しいわ?」
「え? あ……ありがとう、ございます……」
赤くなって言うノエルさんは、まだ少し挙動不審気味で、あまり人と話すことは得意じゃなさそうだったけど、私は拒絶されない限り居座ってやろうと思った。
(だって、お友達は多い方が楽しいじゃない?)
これを機に、彼女とも仲良くなれないかしら。なんてことを考えていたら、顔が自然と笑っていたみたいで、不思議そうな顔したノエルさんが小首を傾げて私を見ていた。
あらあら、私ったら。
「ねぇノエルさん、夜は一緒に屋台を見に行かない?」
「えっ、わわわ私ですかっ?」
「ここには貴女と私以外いないわね」
「ああああの、あ、ありがとうっ……ございます……」
これは了承、ということにしておこう。私はますます、笑ってしまった。
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リンフォは司書になってから笑顔が増えましたよっていうお話。
ノエルさんとリンフォが並んだら身長差がすごそうですね。