駅長になって長いが、何度経験してもこの駅長会議というものは面白い。
 各駅の駅長が一堂に会すまたとない機会。一人一人が真剣に一年間の成果を発表する。時にはこれからの事業について話し合い、休憩時間には談笑も交えながら。
各々が各国の代表同然なのだ。警備は厳しいが、駅長諸君の中にはその意識が薄いものもいるだろう。
(俺もその一人、か……)
 こうして集まってみれば、なんのことはない。俺にとっては皆、友人のような存在だ。友人同士が集まり、ちょっとした会議のようになっているだけ。その考えは甘いのかもしれない。けれど、そんなものだ。
(図書館司書には苦労をかけるな)
 その意識の低さが、思わぬ事件の引き金を引くこともある。それは重々承知しているつもりだが、それでも、やはり自分を含めここにいる駅長諸君らはただ、駅を街を国を、守ってきただけにすぎないのだという思いは拭えない。
 だから簡単に出歩くし、簡単に街に溶け込んでいく。駅長という肩書きを携えた、俺たちだってこの世界に生きるほかとなんら変わらぬヒトなのだ。

 会議は進む。もうすぐ、俺の番だ。俺の街は、ギルガメシュは、今年もいい一年だった。遺跡荒らしは出るものの、被害は最小限に食い止められ、多くの観光客も訪れた。外からの来客に、街の人々も少しずつ慣れはじめ、これからは祭日に祭りを開けるようにもなるかもしれない。俺の愛した街は、前を向いて歩き出している。表情を繕うのに苦労する。もうすぐ俺の街の状況を離せるかと思うとわくわくして、ニヤけてしまいそうだ。

***

「今日は随分と機嫌が良さそうじゃのう?」

 休憩時間に入って、イコロさんは開口一番そう言った。

「締まりのない顔をしておる」
「あぁ、やっぱり顔に出てしまったか」

 どうやら表情は繕えていなかったらしい。イコロさんも俺を見て、ニヤッとしている。

「なんじゃ? いやらしいことでも考えておったのか?」
「やだな、そんなキャラじゃないだろう?」
「どうかの」

 プッとお互い吹き出して、笑い合う。イコロさんとは席が隣通しなのもあって、しょっちゅうこういうくだらないことで話を弾ませている気がする。

「で? 本当のところはどうなんじゃ?」
「いえね、もうすぐ俺の番じゃないか」
「うん?」
「俺の街について皆に離せるのが嬉しくて」
「ほーお、なるほど。エフちゃんは本当に自分の街が好きじゃの」
「そんなの、イコロさんだって同じだろう?」
「まあの」

 今度は小さく笑いながら。ここにいる駅長も、館長も市長も。皆自分の街が大好きだろう。守りたいだろう。だからここにいるんだろう。枝折さんに至っては、自分で築き上げた街だ。その愛はさぞかし深いだろうな。すべて推測に過ぎないが、きっとあたっている。

「ところで、そろそろ腹が減ってきたのう……」
「もう夕方近いからな。あぁ、そうだ。昨日街でマダムたちに菓子を頂いたんだ。いかがかな?」
「ぜひ頂きたいの!」
「どうぞお好きなだけ」

 鞄から可愛くラッピングされた恐らくお土産用である菓子折りを取り出し、イコロさんに手渡す。いつ見ても、イコロさんはいい笑顔だ。関係ないことを考えた。

「うむ。うまい」
「それは良かった」

 そろそろ、再開の時間だ。さて、今日中に俺の番は回ってくるかな? まあ、回ってこなくとも、愛する街のことを話す駅長たちの話を聞くのは実に楽しい。駅長になるまではギルガメシュ一筋で、今もその気持ちに変わりはないが、駅長になってからは、他の街にも行ってみたくて堪らない。きっとどこも負けず劣らず、素晴らしいところなのだろう。
 毎年、毎年。駅長会議が終わってからはウズウズしっぱなしだ。

 やはりこの駅長会議というものは、実に楽しい集まりだ。



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席順、発表順は駅順かなーと思ったので。
前半いらない気がしてます←

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