始まりはこんなものでした


ガタンと勢いよく後退ると、先程手に取ろうとして片付け忘れたフライパンが宙を跳ねる。床に落ちるかと思われたそれは、俺が反射的に手を伸ばす前に相馬が受け止め後ろの台に放った。
何故、何故こんなことになったのかなど俺には判らないし、判る気もさらさらない。ただもしも教えてくれるならば答えてくれ。なんでこうなった?
ワグナリアも閉店時間を過ぎ、店長は俺と佐藤に片付けを任せ早々に去った。俺はキッチンを、相馬はホールをモップがけしていたんだ。ああそう、さっきまで。突然相馬がキッチンに顔を出してきたかと思えば、俺へと投げかけた第一声がこれだった。

「佐藤くんってさ、やっぱり轟さんのこと考えながら自慰してたりするの?」

とりあえず落ち着けるわけもなくフライパンを手に取ろうと相馬に背を向けた瞬間、腕を引かれキスをされる。おいおいおい、これで理解できる奴がいたら教えてくれ。何がどういう展開でこうなんだ、教えてくれ。
舌を入れられ、口内をひたすらまさぐられ、やっと離されたかと思えば俺は息絶え絶え。そして休む間もなく、相馬は膝で俺の足の間をぐりぐりと押し付けてきた。

「ん、やめ、ろ」
「ねぇねぇ、佐藤くんはさ、いつまで轟さんのことが好きなの?不毛なことは本当にやめたらいいと思うな」
「やめ、…っ」
「ねぇ、僕にしない?」

耳元で耳障りな甘ったるい声を浴びせながら、相馬はそう言って耳を舐め、噛む。首筋に舌を這わせながら服を脱がし、そしてやはり舐める。俺はもうこいつを引きはがそうと試みるが力が入らない。くそっ、こんな時に。

「ひ、あぁ、あっ」
「ほら、硬くなってきてる。感じてる?気持ちいいでしょ、佐藤くん」
「やめ、そ、ま」

相馬の膝が痛い。なのに気持ちいい。なんだ、俺はマゾヒストだったのか。いや、そんなわけねぇよな。いやでも本当になんでこうなった。こんないつも働いているはずのキッチンで、わけが判らない。気持ちいいんじゃない、判らない。

「ん、あああぁっ」
「あーあ、もう逝っちゃったの?つまんないなぁ」

何がつまんないだ。くそったれ。

(100518)

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