固まるよな体、なだらかな夜またか
「まさか八千代から飲みに誘われるとは思わなかった」
「お酒美味しかったから、また飲んでみたいなって思ったの。でもお店には買いに行けないし、佐藤君なら一緒に行ってくれるかなって。それに今日は私が誘ったんだから、お代は奢らせてね」
「…判った」
お天気のよかった日も夜になると、真っ暗になって少し怖い。せっかくの休みなんだから、夜じゃなくて昼でもいいって言ってくれたけど、どうしても私は夜がよかったから、佐藤君にお願いした。
初めて飲みに行った日に佐藤君に抱きしめられてから、なんだか自分でも判らないような気持ちが渦巻いていて、友達は嬉しいのに、友達は嫌で。判らなくて考えたけど、やっぱり判らなくて、今日はもう一度佐藤君に訊いてみようかと思ってる。今日を考える前に小鳥遊君のお姉さんに相談してみたら、飲みに誘ったらいいって言われたの。お酒で酔うと、誰でも本音が出ちゃうからって教えてくれたわ。それに奢ってもらった分も返さなくちゃならなかったし。
だから前よりも長く、楽しくお喋りしながらお店にいた。ちょっとだけ頭がふわふわしてきたのは、私の方が酔っていたからなのかもしれないけど、今日は頑張って佐藤君から訊いてみなきゃ。
「八千代、もう大分酔ってないか」
「私は大丈夫よ。佐藤君こそ、少し顔が赤いみたい」
「…ああ、そうか。一応酒には強い方なんだが」
「うふふ、そうなの。私は強いかしら」
「弱くはないんじゃねぇの」
たわいもない会話の後で、赤らむ佐藤君の頬に手を伸ばすと、すぐに退けられてしまう。それから少しお酒を飲みながら、そろそろ大丈夫かなと思って、私は彼へ切り出した。
「ねぇ佐藤君。この間のあれは…やっぱりどういう意味だったの」
私の言葉に佐藤君もまた少しだけお酒を含み、それもまた考え出した答えを口にする。
「考えてくれって言っただろ」
「判らないから訊きたいの。それとも、訊いちゃいけないことだった?」
「俺は、お前が……」
その時だった。言葉を遮るように鳴り響くバイブレータ。暫く鳴っていたことから、メールではなく着信だと判った。私の携帯は設定が判らなくて買ったばかりにされていたもの、そのままだったから、すぐに佐藤君のだと気づく。彼はポケットから取り出した携帯を眺めているのでしょう。下に俯いたまま言葉の続きがなかった。
「佐藤君。電話なら出ても大丈夫よ」
「俺は八千代が好きだ」
そして、無造作に着信を切った携帯をポケットにしまって、佐藤君は言う。佐藤君はいつも私の欲しいものをくれるのね。
「私も佐藤君が好きよ。それは前にも…」
「そうじゃない。そうじゃないんだ。これは」
「佐藤君」
やっと、その意味が判ったわ。そうやって一生懸命に伝えようとしてくれるのは何度目かしら。気づいてないこともたくさんあると思うの。でも今は笑って言わせて。あと一つだけ訊きたいことがあるのよ。
「はい」
ねぇ、どうしてさっき携帯を見た時、そのたった一言を躊躇ったの。
(110404)