「好きだ」

「うん、俺も」










一ヶ月前の話だ。俺と坂田が付き合い始めたのは。
坂田への想いに気付いたのは、その三日前の、十月十日。

坂田は誕生日らしくて。

顔の広い坂田は、色んな奴から誕生日プレゼントを貰っていた。道のど真ん中。厭でもあいつの顔は視界に入るわけで。
苛々しながら見ていた。
だけど、はた、と気付いたんだ。今までのムカつく苛々じゃないことに。何時もとは違う、苛々。
心が沸々と、煮え返りそうで凄く感情的な苛々だった。


「ぁ…」


それが嫉妬、だというのに気付くのにそんなに時間は必要なかった。
あいつが無償でやる笑顔や優しさが、俺に向けばいい、なんて。心の隅っこで考えていた、なんて。

なんて、馬鹿馬鹿しい。





けれど、それから思考は乙女ちっくになる一方で。山崎にまで、副長最近雰囲気変わりましたね、とかふざけた事を言われる程には、思考回路が麻痺していた。

俺は、男だ。何が悲しくて思考を乙女にしなければならないのだ。
そう考えていたら、また苛々して。


その苛々を坂田にぶつけた。好きだ、その三文字にありったけを込めた。

そうしたら坂田は笑って俺も、と言った。正直、諦めていた。罵声や酷い仕打ちも、覚悟していた。
だけど坂田はどちらでもなく、俺の想いを掬い上げてくれたのだ。凄く嬉しかった。



だけど、一ヶ月経った今は、その関係さえもが重荷だ。

坂田はあの時、俺も、とは言ったけど、好きや愛してるの類の言葉は聞いていない。一ヶ月経った今、まで、一度も。


坂田との約束はなるべく破らないように、代われるような仕事は代わってもらって。駄目な時は、万事屋まで行って謝ったり、とにかく俺は坂田を一番とまでは言えないか、優先して来た。

だけど、無駄だったみたいだ。きっと、最初から、俺は好かれていなかったんだ。

優しい坂田からは俺を振るなんて無理だから、ここは、男らしく俺から別れを告げよう。苦しいけど、やっぱり好きな人には、笑っていて欲しいから。俺が重荷ならば、俺は笑って、引き下がるから。


















「別れよう」



万事屋に来て、玄関先での言葉。
十一月十三日。以外と玄関は寒かった。悲しさで震える手は、寒さの所為だと言えるな、なんてまるで他人事のように考えて、バレない程度に自嘲した。


「…は?」
「だから、別れよう。お前は、俺が好き、じゃないだろ?」
「…何言ってんの」
「なら、無理して付き合わなくていい」



坂田の顔が思い切り歪められる。ああ、拒絶も何もかも、覚悟していたのに。した、つもり、だったのに。盛大なまでに傷付いている自分がいた。
これ以上坂田と対面出来ないから、踵を返した。






「…ちょっと待って、土方。俺は、お前と別れる気ないよ」



右手を捕まえられて、万事屋から出ることは叶わなかった。


「っ、お前は!俺の事好きじゃないんだろう!」
「だから、そこ。どうしてそう思うの」
「…好き」
「は?」
「坂田は、言葉をくれないだろ?」
「…」
「だから、お前は俺を好きじゃない」
「…はあ、」



一際大きなため息をついた。
そして、そのまま腕を引かれ、後ろから抱きしめられた。

「…なに、」


「…好きとか、愛してるとか…」





「は、恥ずかしいだろーが…」













「え?」


「あー!だから嫌だったんだ!好きとか、恥ずいんだよ言うの!!」




そんな。いつもあんなに余裕な坂田が。


「だけど…」
「?」
「それがお前を傷付けたなら、俺は何度でも言うよ…」
「坂田…っ、」












「あいしてるよ」













欲しいもの
  (耳元に、深いテノール)



end.

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