シズちゃんと俺は、犬猿の仲。とういうより、殺伐な関係と言った方がいいだろう。
まあ、それは外、池袋での話。

三ヶ月前から、俺らは付き合っている。それは勿論、男女がするような甘い関係の事で。赤裸々に言えば、セックスだってしてる。
それくらい、シズちゃんと俺はラブラブだった。
だけど、最近。ここ1週間。シズちゃんは凄い冷たい。約束はほとんど破るし、守ったとしても途中でどっかに行っちゃうし、電話しても出ない、メールも無視。セックスだって、あんなに優しかったのに、暴力はしないまでも乱暴になった。


別に、暴力だったら。俺だってそこまで悩まないよ。
殺し合いのときみたいに、笑って終わらせられる自信がある。俺は本当にシズちゃんが好きだから辛いけど、ああ終わったんだなって思える。


だけど。

明らかに避けられている。俺との一切の接触を。

そんな風に今までなったことは一度もない。殺し合いの毎日だって、シズちゃんは俺を無視するなんて事はしなかった。嫌ってはいたのだろうけど、ちゃんと、見つけてくれた。池袋のどこに居ても。
でも、もう、シズちゃんは俺を見ていない。

さっき、目の前に俺が居たのに。シズちゃんは無視していた。サングラスをしていたから目線がどこにあるかははっきり分からないけれど、俺を見ていなかったのは確かだ。
隣に居た上司が目を見開いていたくらいだから。



「しずちゃんの…ばか…」



何で。なんて、言わない。だって、理由は分かってるから。でも、だったらこんな間接的じゃなくて、直接、言葉だって、暴力だっていい。そう、直接伝えて欲しい。
俺が嫌いだ、と

俺がうざい、と

俺は要らないんだ、と








それから、また一週間。
俺がシズちゃんに、しつこいくらい電話やメールしても、出てくれたり返してくれたりするのは、10回に1回くらい。それでも、いい方なんだけど。
だから、俺から連絡するのをやめた。そうしたら、案の定。音信不通になった。
俺からシズちゃんに歩み寄ろうとしなかったら、シズちゃんには近づけない。俺が歩み寄ることをやめたら、シズちゃんは喜んで背を向け歩き出す。


見えていた関係だ。分かっていた関係だ。

だって、シズちゃんは、俺が……嫌いなんだから。



知ってたけど…辛かった。
だったら、付き合うなんて、デートなんて、セックスなんて、しなくたって良かったのに。無理しなくても…よかった、のに…馬鹿なしずちゃん…

本当に馬鹿なのは、俺だけれど。





久々に、シズちゃんが一人だったから。
腕を掴んで、路地裏に引っ張って行った。


嫌いなら、うざいなら、要らないなら

直接言って欲しくて。





「シズちゃん」
「…」
「ねぇ、聞いてる…?」
「…」
「シズちゃん…って、ば…」
「…」

一向に、シズちゃんは喋らない。
ああ、本当に終わったんだな。と、頭はスッと関係の終わりを理解したのに。心がズタズタになって、その現実を受け入れようとしない。

「…な、ら……よ」
「あ?」

小声で言ったら、シズちゃんには聞こえてなかったらしくて。そうしたら、それがイラついたのか、返事とはいえないけれど、言葉が返ってきた。
その瞬間、俺の何かが切れた。


「嫌いなら、うざいなら、そう言えよ!何で、そうやって間接的にやるんだよ!シズちゃんらしくもない!暴力にしろなんにしろ、直接やればいいだろ!」
「…、」
「俺は!俺は…っ、シズちゃんが好きなのに…好きな奴に無視される気持ちが分かる?!分からないよね!だってシズちゃんは俺のこと、別になんとも思ってないどころか大嫌いだもんね、殺したいくらいに!」
「いざや…手前…」
「何さ!怒るの?だったら怒ればいいじゃん!俺を殴ればいいだろ!」
「何言って…」


「俺は…、折原臨也は要らないんだって殴れよ!!!」







言いたいこと言った。
そうしたら、シズちゃんが、右手を上げた。



ああ、本当に、これで、終わりだ。






そう思ったのに。



「こんの、馬鹿。殴れるかよ…」

って、振り上げた右手を俺の後頭部に回して、抱きしめた。

「シズちゃ…?」
「殴れる、わけねえだろ。…俺だって、手前が好きだ」
「うそ、だ…っ!」
「嘘じゃねえ!」

今度は、両腕で抱きしめられる。痛いくらいに、ぎゅうぎゅうと。

「泣きながら、そんな事言うなノミ虫」
「…」

シズちゃんにそう言われて、始めて自分が泣いてることに気づいた。

「俺は、手前にとって俺は要らないのかと思ってた」
「…何でさ…」
「手前は、俺の前で笑わないし、楽しそうじゃねえ。だけど、門田とかには、直ぐに笑顔になるし、なにより…楽しそうだった」

確かに、そうだったかもしれない。
シズちゃんの隣にいることが、一緒に居られることがあまりにも嬉しくて…だらしない顔になるのが嫌で、力を入れていた。けど、そういう風に見られてたなんて…

「だけど、手前が今…俺に全部言ってくれた。だから、分かった。すまねえ…辛い思い、させたな」
「いい、の…俺も、悪かったから…」
「臨也」
「…シズちゃん」


何ヶ月振りかのキスをして、抱きしめあった。





必要不必要理論
 (足りなかったんだよ、お互いね)






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