「あっついなああああ」
「そうだな」
「ああ、もう何で土方さんはそんなにクールなんでさぁ、さっさと死ねばいいのに」
「現代文やり直して来い」

まだ数人しか居ないこの会社の事務所。
クーラーなんて金のかかるものがこんなちっぽけなところにあるはずもなく。扇風機すら勿体無いと近藤さんが言い始めたので、うちわで今年の夏は乗り切ることになった。

「あ、近藤さん、俺もう時間だから補充に行ってくるよ」
「おうもうそんな時間か」
「事故に合って死ね土方」
「こら、総悟!それは言っちゃ駄目だろ!?」

言葉が迎えに行く。という事を信じている近藤さんは、そういう所だけは厳しい。総悟は近藤さんに怒られたのが気に食わないらしく、ムスッとしながら返事をしていた。

「じゃあ、行ってくる」
「気をつけろよ」
「死なねぇように」
「ああ。あと、今日は直帰する」
「へーへー知ってらぁ」

近藤さんと、総悟なりの忠告をありがたく受け取り、トラックの鍵をポケットに無造作に突っ込んで事務所を出た。
そして、1階にあるトラックを出す。2階が事務所なのだ。

今日回るところは駅前2つと、大江戸高校。

まずは駅前を先に回ることにする。大江戸高校は、最後。
なぜか知らないが、俺が補充しに行く度に、坂田に出会う。そしてお互いに話をしていると時間が過ぎていくのを忘れて、いつも定時より3時間も遅れて事務所に帰っていた。連絡も忘れるので、近藤さんに何度も心配され、総悟に何度も怒られ…それからは大江戸高校の補充があるときは、直帰にしてもらった。というか、させられた。






「ふぅ…」

2つ目の駅前の補充が終わった。
夏で、夕方。西日が直接当たるところに設置されたこの自販機の補充は凄く辛い。眩しいし、暑い。
早く涼しいところに行きたいと、台車を人に当たらないよう細心の注意を払いつつ急がせトラックに戻る。
そして、エンジンをかけて冷房を強にする。

「あー…生き返る…」

落ち着いてきた頃最初のところで買った、オレンジジュースを飲む。

「ぬっる…」

トラック内の温度も半端なく暑かったから、凄くぬるくて、気持ち悪いくらいだった。
少ししか残っていないオレンジジュースを仕方なく全て飲み込み、大江戸高校へ向かった。
まるで俺は、大江戸高校に仕事をしに行ってるのではなく、坂田と話す為に行っているようだな。なんて思いながら、アクセルを踏んだ。




「お、土方君はっけーん」
「坂田…」

補充が漸く終わった。そんなときに例のあいつは現れた。
図っているようなタイミングで。

「今日もお疲れ」
「ありがとう。お前もな」
「おう」


そして、いつものようにお互い補充したばかりの自販機でそれぞれ飲み物を買って、ベンチに座って話し始める。

「いつも思うけど、土方君はブラックコーヒーだよね? 苦くないの?」
「いや…甘いほうが苦手だから。」
「そうなんだー」
「坂田こそ、イチゴ牛乳ばっかりだな」
「甘いのこそ、俺の楽園!!」

両腕を上げて天を仰ぐ坂田が、あまりにもまじめだったから、思わず笑ってしまった。

「笑うなよなー」
「すまん、つい」
「でも、土方笑うとかわいい」
「はあ?!」
「本当だよ?」

男の俺には似つかわしくない言葉が聞こえた。聞き間違いかと思ったが、坂田はいたずらな笑いじゃない笑みを浮かべながら言う、から。何も返せなくなった。
気まずい感じにシーンとなったところへ、

”坂田先生、坂田先生。お電話が入りました。至急職員室へ来てください。繰り返します――”

と、放送が入った。


「あら、電話だって。じゃあ、土方君、またね」
「お、おう」

坂田は走ることはせず、たらたらと歩いていった。便所サンダルみたいなサンダルのペタペタ歩く音が消えるまで、俺は坂田が歩いていった方を見ていた。

かわいいなんて。

そうだ、俺みたいな仏頂面に言う言葉じゃない。
分かっているのに。どうしてだろう。どうして、こんなに…。

気のせいだ。そんなのは、きっと、気のせい。


感情を飲み込んで、俺は缶を捨てて立ち上がった。


「帰ろう」












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