「具体的に何をすれば良い」
「俺も仕事はあるから…仕事終わってからまた電話するよ」
そう言って、喫茶店のお金を(勿論シズちゃんの分も)置いて俺は仕事に出る。
仕事やってるときも、自宅に居るときほどではないけれど、ちらちらと視線を感じる。シズちゃんなんじゃないかとかも考えたんだけど、シズちゃんはそんな器用じゃないし、まずそんなに長期戦でくるわけないし…なにより、ずっと俺をつけてたら噂になるしね。
四木さんとの会合の後、また復活する視線。
「うざったいなぁ…」
なんてぼやいても、視線はなくならない。嫌になる。気持ち悪い。
シズちゃんに電話しようと、携帯を取り出した瞬間。
「よう」
「シズちゃん…?」
「何驚いてんだよ。俺は手前の彼氏だろうが」
「え、いや…まあ、そうだけど…さ…」
まさか、目の前に居るとは思わなかった。
まあ、俺の匂いが分かるシズちゃんだから、そんな難しくもないか、と自己完結して、歩き出した。
さっきまでの視線は感じなくなっていた。
「おい、手前、腕…」
「腕組むくらいいいじゃん!」
「あぁ!?」
「恋人つなぎは、シズちゃんの本当の彼女に取っておいてあげるからさ…」
ボソッと。本当に、ボソッとつぶやく。
シズちゃんには聞こえてなかったみたいで、ちょっとだけホッとした。のと同時に少しだけ残念に思った。
聞こえてたら、こんな俺にも優しいシズちゃんはやってくれるかなーなんて、期待してたんだけど。
まあ、俺の彼氏役をやってる事だけでも十分だよね。
俺には、彼氏”役”なんかじゃないけど。
それは伝えなくてもいい真実だ。
俺が、シズちゃんを好きだっていうことは。
「シズちゃん、今日はありがとう…。はい、これ、一万円」
「おう…」
本当は、家に居て欲しい。まだ、一緒にいて欲しい。
だけど…それは言えない。あくまでシズちゃんからしたらボディーガードだから。そこまでしてもらう義理はないし。もし行ったら、一万円なんか要らねぇから辞めるなんて言われたら。
そう考えただけでもぞっとしない。
「じゃあな」
「うん、ばいばい」
手を振って、扉を閉めて。
カーテンを閉め忘れた窓辺に近づくと、また。
また、視線を感じる。感じたその先を見ても誰も見えない。この誰かも分からない不安と苛立ちが、精神を不安定にさせる。しかもそれが夜ときた。
精神がより一層不安定になる夜に、追い討ちをかけられるなんて…。
一気にカーテンを閉めて。
もうずっとカーテンは開けないでおこう。
そう決めて、俺はベッドに入って布団を頭までかぶって目をつぶった。
今日のシズちゃんとの出来事を思い出していると、久々に眠れた。
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