「やぁシズちゃん」
「いざや…手前…」
「ストオオップ。さあ、これなんだ」
ぴらり、とシズちゃんの前に福沢諭吉を見せる。
「一万円だ」
「そう!日給一万。一ヶ月だけ。俺の彼氏になってよ」
事の発端は、こうだった。
最近、ストーカーが現れるようになった。
一人で居るときは勿論、ドタチンやら新羅やら、とにかく男や女、2人以上で歩いていても付きまとわれる始末。
この俺をもってしても犯人は分からない。
メールやら電話やらの嫌がらせはない。
けれど、ずっと舐められるように張り付いている視線と、足音。
それだけで結構苦痛だったりする。
だけど、ある日気づいたんだ。
シズちゃんと居るときだけ、それが全くないことに。
だから、俺としてはボディーガード。そいつにとっては彼氏だと思わせることにした。
まあ、俺の不順な動機もあるんだけれど。そいつを利用させてもらう。
一ヶ月もすれば、大丈夫だろうから。期限をつけて。じゃなきゃ、シズちゃんは嫌がるだろうし。
「…っていうわけでね…」
「………」
「本当にお願い!…俺だって、結構キツイんだよ…わけの分からない奴に付きまとわれるっていうのは…」
「………」
「…やっぱり、だめ…だよね」
本当に、本当に。苦痛っていうのは、キツイっていうのは、嘘じゃない。
現に、夜も眠れないんだ。電気を消すのが怖い。怖いもの知らずの情報屋とはいえ、精神的にくるのは辛い。自分が被害者だから、尚更。
「……、分かった。引き受ける」
「本当!?」
「ただし。そのストーカーってのが、嘘だったら手前は抹殺する」
「いいよ。だって、嘘じゃないもん」
こうして、一万円で、ボディーガード兼恋人が出来た俺。
ストーカーは本当。
でも理由はそれだけじゃないんだよ、シズちゃん。
俺は君の事が―――
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